パリにいた当時、ローマやフィレンツェといった古都を旅して回って、その風景にもそろそろ食傷気味だと感じていた頃、仕事で訪れたベルリンの街並が、ひどく新鮮に感じられたのを覚えている。

 カイザー・ヴィルヘルム記念教会の中には、第二次大戦終戦直後の惨憺(さんたん)たる市内の写真が展示されていたが、それと、ダイムラー・クライスラー・アリアールをはじめとする現代建築の乱立とが重ね合わされると、やっぱり、戦争で一度、過去を徹底的に粉砕された街は、何でもありだなということがつくづく感じられた。

 現代の都市開発においては、しかし、資本の爆撃的投下さえあれば、現実の爆撃がなくとも、風景など一変してしまうことは、上海のような街を見ているとよく分かる。東京も、「失われた十年」を経た後のこの10年間ほどで、ふと、空を見上げた時の街並みの凹凸は、かなり変化しているだろう。六本木や丸の内の再開発事業地はもちろんのこと、ファッション好き、建築好きの人にとっては、表参道や銀座のファッション・ブランドのビル群のほうが刺激的だったに違いない。ちょっと名前を挙げてみるだけでも、MVRDV、SANNA、伊藤豊雄、青木淳、安藤忠雄(表参道ヒルズ)、ヘルツォーク&ド・ムーロン、レンゾ・ピアノ、乾久美子など、大御所から新鋭まで、建築家の顔ぶれは様々である。

X-Knowledge HOME特別編集 No.6 平野啓一郎責任編集 PUBLIC・SPACE(画像クリックで拡大)

 少し前に、私は、表参道に出来たばかりのMVRDVのGYREビルを見に行ったが、正直、前評判ほどの印象はなかった。ランダムに箱を積み重ねたような5つのフロアの「ずれ」は、聞くところによると、地震の多い日本のような国では、とてももたないというので、企図していたよりも、かなり「真っすぐ」に修正されてしまったらしい。隣のSANNAのDiorビルを意識してのデザインというのは、彼ららしい話だと思うし、その意味では、対比は効果を上げていると感じたが(MVRDVの一人ヤコブ・ファン・ライスとは、数年前に編集した『X-knowledge HOME 特別編集No.6 PUBLIC SPACE』で対談をしているので、ご興味のある方はどうぞ)。