ケータイサービスのオープン化が功を奏した?

 今回の「PRADA Phone by LG(L852i)」は、PRADAとLG電子が主導する形で日本向けの端末も企画され、これまでの通信事業者主導の形態とは違った形で発売されることになった。このような形でブランドコラボケータイが登場することとなったのは、わが国のモバイル産業における、これまでの「大きな流れ」に変化の兆しが見え出したことを示しているのである。

 わが国のケータイ加入者はほぼ頭打ちといわれ、これまでの新規契約需要から、買い替え需要にシフトしつつある。そして成熟化したモバイルビジネス環境をさらに活性化させるため、総務省は昨年秋に「モバイルビジネス活性化プラン」を公表し、モバイルサービスのオープン化に向けた施策を打ち出した。

 これを受けて、通信事業者各社は端末価格を明示し、販売奨励金の見直しを行った。このため昨年11月からNTTドコモやauの端末価格が高価になり、NTTドコモの場合は割賦販売の仕組みまで導入することとなった。

 世界では本来、ケータイ端末価格はそれなりに高く、普及版のモデルでも日本円で3万~4万円程度、わが国で販売されるようないわば“何でも入り”の高機能モデルであれば6万~8万円程度するのは常識である。ところがわが国では販売店に支払われる「販売奨励金」を相殺することで端末価格を安価に設定し、いわば「端末の投売り」が公然と行われてきた。

 この販売奨励金がからむケータイ販売では、必然的に通信事業者ブランドのケータイ端末でなければ販売を成り立たせることは難しかった。販売奨励金の対象外となってしまう、端末メーカーブランドのケータイ端末においては、販売奨励金適用外のため店頭での販売価格は極めて高価になってしまう。このため通信事業者ブランド端末との価格差が大きくなるため、結局のところメーカーブランド端末は成り立たない構造となっていたのである。世界最大手の端末メーカーであるノキアが、これまでたびたび日本でもメーカーブランドのオリジナル端末の販売を行っているが、やはり端末が高価になってしまったため、販売台数を伸ばすには至らなかった。

 しかし、昨年11月以降販売奨励金が見直され、端末販売価格がいわば“正常化”してきたことで、通信事業者ブランド以外のケータイ端末が、商品として並ぶ可能性も出てきたというわけである。こういうタイミングで口火を切るかのごとく現れたのが、今回の「PRADA Phone by LG(L852i)」というわけだ。

 とはいえ、まだまだわが国のモバイルビジネスは変化の過渡期であり、「PRADA Phone by LG(L852i)」も完全な形でのメーカーブランド参入とはならなかった。

 NTTドコモの販売店で入手できる気軽さや、iモード等が使える便利さはありがたいのだが、端末はNTTドコモのUSIMカード以外は利用できないような「SIMロック」が掛けられてしまっている。すでにソフトバンクモバイルなど、他の通信事業者のケータイサービスを利用しているユーザーが PRADA Phone を利用したいと考えても、この場合にはMNP(番号ポータビリティー)を利用するか、新たにNTTドコモと回線契約を結ぶ必要がある。

 一方で世界では、回線契約など関係なく、店頭で PRADA Phone を購入する際には、支払いだけ済ませればすぐに持ち帰ることが可能である。その端末にどの通信事業者の回線を組み合わせるかはユーザーの自由なのである。こういった、世界に足並みを揃えた「自由なケータイ利用環境」は、近い将来日本にも訪れると期待されているわけだが、今回発売された PRADA Phone は、もしかしたらその潮流を変える第一歩となるモデルなのかもしれない。まずはこのようなファッションメーカーと端末メーカーが主導で開発されたブランドコラボモデルの登場は極めて画期的だ。発売後の健闘を祈りたいし、これをステップに、わが国のケータイサービスのオープン化に一石を投じてもらいたいものだ。

 例えば韓国車なども市販される自動車のほとんどにハンズフリー装置が装着されている。それも極めてシンプルなものだ。運転席にマイクとスピーカーが装着され、イヤホンジャックが伸びているだけのものもある。既存のケータイを簡単に接続できるのだ。

 対して日本車は、ハンズフリーを推奨し、積極的に搭載しているとは聞くものの、世界からは大きく遅れを取っているように感じる。実際、国産車でのハンズフリー装着率はどれぐらいのものなのだろう。

 日本の風潮を見ていると、運転中の通話が原因で、もし事故が発生した場合、その責任の追及の矛先は自動車メーカーにも向けられてしまうのだろう。国産車のハンズフリー装置の多くは、わが国ではカーナビゲーションの機能の一部として提供される。おそらく万が一大きな訴訟になった場合、自動車メーカーはその責任をカーナビメーカーに負わせるためにそうしているのではないかと、ついつい勘ぐりたくなるのは筆者だけだろうか。

 話がそれてしまったが、欧州で旅客機でのケータイ利用が実現されれば、その後はわが国でも導入するかどうかという議論に至るはずである。仮に国内線旅客機でケータイが使えるようになれば、それなりに需要は高いのではないかと考えるが、その一方で旅客機上での「ケータイマナー」も激しく議論されることになろう。結論として「機内では、個人のケータイ利用はお止めいただき、ドア付近の公衆電話をお使いください」というようなオチにならないことを願いたい。

著者

木暮祐一(こぐれ ゆういち)

1967年東京都生まれ。携帯電話研究家、武蔵野学院大学客員教授。多数の携帯電話情報メディアの立ち上げや執筆に関わってきた。ケータイコレクターとしても名高く保有台数は1000台以上。近著に『Mobile2.0』(共著)、『電話代、払いすぎていませんか?』など。http://www.kogure.biz/