(上)インターネットのスパム防止の認証画面などで、ときどきノイズのかかった歪んだ文字の画像を見て、そこに書かれている文字を入力させる場合がある。機械には読み取れなくても、人はまったく問題なく文字を読み取ることができる

 人間の脳は、取得した情報の中から無意識に意味のあるまとまりを拾い出そうとしてしまうという性質がある。また、複数の重なった異なる文脈の情報の中から、選択的に一つの情報を取り出す事は得意だが、同時に複数の情報を理解するのはニガテだという性質がある。このため、極太ゴシック体のアルファベットという、とても“読みやすい文字”を隠蔽パターンにすると、隠蔽パターンの方が先に見えてしまい、背後の文字は相対的にさらに読みにくくなるものと思われる。

 もちろん、大きな隙間が空いていると、そこから見える背後の文字が意味を形成しやすくなってしまうので、「CDFIJLNOPQRSTUYZ」を使わず、「ABEGHKMVWX」だけを配置している。うーん、深い。(勝手に深読み?)簡単なようで実は難しいパターンなのだ。きっと相当数のパターンによる試行錯誤があったに違いない。

 と、とても工夫されたツールで簡易的には効果もかなりあるのだが、完璧とは言えないのもまた事実だ。他の方式が紙を完全にバラバラにしてしまうのに対し、ケシポンの場合、スタンプの下には依然情報が物理的に残っている。光沢のない印刷やボールペン等の手書き文字の場合はまず判読不能な状態になるが、紙や印刷の種類などによっては、光の加減等で読み取れてしまう場合がどうしてもある。再生されにくいという意味では、やはり切断タイプに軍配が上がる。

 パッケージにも「捺印できないもの」として、「アート紙、コート紙、トレーシングペーパー、硫酸紙等の加工紙及び和紙、目の粗い紙、滲みやすい紙、プラスチックシート等、紙以外のもの」と、不得意な物が列挙されているし、注意書きにも「この商品は完全なデータの隠ぺい、抹消をするものではありません。データの流出により被害が生じましても、当社ではその責任を一切負えませんのであらかじめご了承下さい」という文言が入っている。

 もちろん完璧になるなら、それに越したことはない。しかし情報の機密度合いにもよるが、ほとんどの書類に対して何もしないよりは圧倒的に安全性が高まるのは確かだ。処理後の安全性が高くても面倒で使わなくなるぐらいなら、こまめに処理しやすいこういった製品を使うという選択もアリではないだろうか。

 場所もあまり取らないコンパクトな設計だし、刃物を使っていないから安全性も情報破棄製品の中では最も高いものの一つだ。最終的に生き残るかどうかはこれからにかかっているが、新しい選択肢の一つとして、こういう製品が登場することは歓迎すべきだろう。

文具王の“裁定”はこれだ!

※印鑑5つで満点、10段階で裁定

著者

高畑正幸(たかばたけ まさゆき)

高畑正幸

1974年、香川県生まれ。図画工作と理科が得意な小学生を20年続けて今に至る。TVチャンピオン「全国文房具通選手権」(テレビ東京系)で3連覇中。現在は文具メーカーに勤務、文房具の企画開発を行っている。著書「究極の文房具カタログ」、文具研究サイト「B-LABO」主宰。新刊 「究極の文房具ハック」発売中!