日も暮れて、いよいよバットディテクターを使った“コウモリ探査”開始の時間が迫っていた。

 ここで、バットディテクターがどのような方法でコウモリの発する超音波をとらえるのか、言い換えるなら「人間の耳には聞こえないほど高い周波数(20kHz以上)の超音波」を「可聴音(20kHz以下)」に変えるのか、その仕組みをおさらいしておこう。

いよいよバットディテクターによるコウモリの探査を開始した永野さん(左手前)と金子さん(右手奥)。あたりはどんどん暗くなっていった(画像クリックで拡大)

バットディテクターの基本的な仕組み:ヘテロダイン方式

 コウモリの超音波を可聴音に変換する方法は、主に3つある。ただし、その1つである「周波数分周方式(Frequency Division)」は、感度が低く、周囲の雑音の影響を受けやすい上、声の特徴も出づらい。そのため、コウモリのいることがあらかじめ分かっている場合には有効でも、いるかどうか分かっていないフィールドには向いていない。つまり、本格的な「コウモリ探査」には使いにくい方式と言える。そこで今回は、残りの2つについて説明する。

 1つは、今回使用しているバットディテクターが採用する「ヘテロダイン方式(Heterodyne)」だ。ちなみに、この方式の中の1つである「スーパーヘテロダイン方式」は、ラジオなどにも利用されているので、この名を聞いたことがある人も多いだろう。

 コウモリの発する超音波は、その名の通り“波”である。この“波”、いわゆる「音波」と比べると、周波数が格段に高すぎて、人間には聞こえない。そこでまず、この周波数に非常に近いけれど、ほんのわずかだけずれている(周波数がほんのわずか高いか、あるいは低い)高周波を、バットディテクターの中の高周波発振器で発振して、2つの“波(高周波)”を足し合わせてやる。すると足し合わされた波は、2つの高周波の周波数の平均の周波数を持つ“波(高周波)”になる。例えば、30kHzのコウモリの超音波にバットディテクターの発振器で発振した28kHzの高周波を足してやると、29kHzの高周波になるわけだ。

 もちろん、これもまだ周波数が高すぎて、人間の耳には聞こえない。しかし、一方で、2つの周波数がわずかにずれていることから、この足し合わされた“波”は、高周波の集まりをひとかたまりとして見ると、一定の周期でふくらんだりしぼんだりする形になる。この「ふくらんだりしぼんだり」を「ビート」と呼ぶ。

 弦楽器の演奏経験者なら、この「ビート」を実際に体験したことがあるかもしれない。

 アコースティック・ギターやバイオリンなどの弦楽器を正確にチューニングするとき、奏者は音叉を使う。音叉は常に一定の周波数で震える(決まった音程で鳴る)。この音叉の音程に合わせようとして弦をチューニングする際、音叉と弦を同時に鳴らすと、3つの音が重なって「ワンワンワン……」という「うなり」が聞こえてくる。弦を音叉の音程に近づけてゆくと、このうなりが「ウワン、ウワン……」と次第にゆっくりになっていき、やがて、うなりは消える。

 このうなりが「消えた瞬間」が、音叉と弦の2つの音が全く同じ音程、すなわち“同じ周波数”となった瞬間であり、チューニングは完了する。このチューニングのときに発生する「うなり」が「ビート」だ。

 さて、話をバットディテクターに戻そう。

 高周波と高周波を足し合わせたとき、この「ビート」の現れる頻度、すなわち周波数は、2つの高周波の「差」の数になる。例えば、30kHzのコウモリの超音波にバットディテクターの28kHzの高周波を足してやると、2kHzのビートができるのだ。

 このビートをラジオの「検波」と同様の方法で音に変換してやれば、2kHzの音波だから、人間にも聞こえるのである。これが、ごく簡単な「ヘテロダイン方式」の仕組みだ。

ヘテロダイン方式を使ったバットディテクター「ULTRA SOUND ADVICE MINI-3」の裏面。英国製であることや、シリアルナンバーが振られていることなども分かる。左手の親指が押さえているあたりに見える、「コウモリが超音波を発してるところ」のシルエットのシールがクールだ!(画像クリックで拡大)