あのヘビメタバンド、メガデスに所属していた伝説のギタリスト、マーティ・フリードマンがJ-POPサウンドを分析するコラム。月刊誌「日経エンタテインメント!」好評連載のネット版「延長戦」第3回目となる今回は「上木彩矢」「リア・ディゾン」「鬼束ちひろ」をメタル斬り!(※ちなみに現在発売中の本誌7月号では「B'z」「桑田佳祐」「アクアタイムズ」を斬っています。また6月中旬公開予定のネット版第4回では「スガ シカオ」「湘南乃風」「aiko」をメタル斬りする予定ですので、お楽しみに)



アメリカ人にJ-POPを聴かせるため、女性歌手を“寿司”に例えると…

 アメリカ人の知り合いにJ-POPの女性シンガーの魅力を伝えるときに、まずは誰から聴かせようってよく考えます。どうしてかっていうと、朋ちゃん(華原朋美)とかあやや(松浦亜弥)とか、僕が大好きな人って、なかなか気に入ってもらえなくって。それで何とかしたいなと(笑)。

 たぶん声の質がダメなんだと思う。アメリカ人の耳には高すぎるんだよね。もちろんマライア・キャリーみたいに高い声を出せる人はいるけど、地声はもっと低くって、高いところは叫ぶように歌うじゃん。僕はその現象がめちゃくちゃ嫌いで、だから日本に逃げてきた(笑)。

 日本の女性シンガーは高音を叫ばないからね。たぶん地声が高いからです。それにチューニング(音程)が少しズレているヘタウマが多いし、低いパートはあまり歌わない。そこが僕は大好きなんだけど、普通のアメリカ人にとっては、寿司みたいなものなんだよね。食べたことがないから、味わい方も分からない。

 アメリカ人が初めて寿司にチャレンジするときって、まずはカリフォルニアロール(アボガドを使った巻き寿司の一種)みたいのでスタートして、慣れてから、いよいよって感じでハマチとかマグロとかの刺身にいく。だけど朋ちゃんは、いきなり踊り喰いじゃん(笑)。それはハードコアだよね。あややとかあゆ(浜崎あゆみ)とかは、踊り喰いよりは食べやすくってウニくらいかな。踊り喰いもウニも寿司好きにはたまらないだろうけど、生魚すら食べたことがない人にはあまりに無理すぎるんだって気づきました。

 で、アメリカ人のJ-POPビギナーに入り口として抜群かもと思ったのが上木彩矢です。高いパートはヘタウマじゃなく歌えているし、説得力あるいい声だし。低いパートも普通のJ-POPの女性シンガーより全然しっかりしていて、ちょっとマドンナっぽい。カリフォルニアロールみたいにアメリカ人でも飲み込みやすいはずです。

上木彩矢
『ミセカケのI Love you』
ビーイング系新鋭歌姫の新曲。「打ち込みのドラムにアコースティックギターというサウンドの構成もアメリカのアイドル系には多いからいいんじゃないかと思う」。


リア・ディゾンは惜しい!

 リア・ディゾンは、ちょっともったいないかなって思います。2ndシングルの『恋しよう♪』はデビューシングルよりも本人のボーカルについては感動したんだけど、一昔前の日本製R&Bみたいな曲で普通すぎてサウンドは面白くなかった。せっかく、「アメリカ人なのにJ-POPの女性シンガーになれちゃった」っていう変わった存在なのに。

リア・ディゾン
『恋しよう♪』
本人が出演するロッテCMソング。「本人が1人で書いた3曲目の歌詞は、すごくよかった。本当に日本が大好きで、日本語の勉強もがんばっていることが分かります」。

 どうせならJ-POPじゃなくって、洋楽ロックっぽい曲を歌うとか、逆に演歌みたいな伝統的な日本の曲を歌うとか極端にしたほうがいいんじゃないかな。『恋しよう♪』はBGMとして聴くには雰囲気がいいし気持ちいい。ジーパン屋さんで流れてたら、ジーパン買いたくなるかも。だけど、衝撃的な話題性がある人なんだから、それに負けないくらいのショッキングさが歌にもほしいじゃん。

 鬼束ちひろの『everyhome』みたいなピアノと歌だけのスカスカなアレンジの曲は、本当は僕のストライクゾーンじゃない。だけど、この曲は最高!

 彼女の声に超感激です!

 エネルギーがビシビシ伝わってきて鳥肌が立った。空気とか人の心とかをコントロールできる声だと思う。もし僕の部屋で2人だけのときに歌ってくれたら、もう泣いちゃうかも。

鬼束ちひろ
『everhome』
2年半ぶりとなる復帰シングル。「洋楽でいうとジョニ・ミッチェルとかジェームス・テイラーとかみたいな存在感で、特にトーリ・エイモスを思い出しました」。

 ボーカルのチューニングは完璧とはいえないんです。でもヘタウマっていう感じでもない。ヘタウマな人は一応正確に歌おうとしてるはずだけど、彼女はたぶんチューニングが正しいことは全然目指してないんだと思います。それに、もしこの声でチューニングも完璧すぎたらわざとっぽくなっちゃうけど、自然にズレてるから距離感がない。これは才能です。個性的が一番大事だから、鬼束ちひろの歌はパーフェクトだと思いました。

筆者紹介 マーティ・フリードマン
 アメリカ・ワシントンDC出身。世界でアルバム1000万枚を売り上げたメガデスの全盛期のギタリスト。J-POPに造詣が深く、日本語も堪能。現在は東京を拠点に、音楽活動のほか雑誌やテレビで活躍中。日経エンタテインメント!の連載「J-POPメタル斬り」も大好評。公式ページは英語版日本語版がある。

著者

マーティ・フリードマン

 90年代、ヘビーメタルバンド、メガデスのメンバーとなりアルバムセールスを1300万枚超えの世界的なスーパーバンドへと導いたギタリスト。その後、J-POPに興味を持ち、メガデスを脱退。活動の拠点を東京に移し、ミュージシャンやプロデューサーとして活動している。11年9月には好評のJ-POPカバーアルバム第2弾『TOKYO JUKEBOX2』を発売した。発売中のSMAPの最新アルバム『GIFT of SMAP』(ビクター)では、木村拓哉のソロ曲『La+LOVE&PEACE』の作・編曲とギター演奏を担当するなど、他のアーティストへの楽曲提供、アレンジ参加など多数。日本の音楽や日本語の魅力について、外国人やミュージシャンならではの視点で様々なメディアにおいて語っている。「日経エンタテインメント!」の連載「J-POPメタル斬り」も大好評。公式ページはこちら