公共施設やレストラン、喫茶店などに設置されているスピーカーで、「BOSE」のロゴを見かけることは多い。どちらかというと、スピーカー専業メーカーというイメージの強いボーズである。

2006年に開催されたトリノオリンピックで一躍有名になったボーズ「QuietComfort 2」。販売は同社ダイレクトストアのみで、直販価格は4万1790円
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 そんな同社のヘッドホンが一躍有名になったのは、2006年に開催されたトリノオリンピック(第20回オリンピック冬季競技大会 2006/トリノ)にて、日本代表の女子フィギアスケーター荒川静香さんのリンクサイドでの様子が画面に映し出された時だった。

 音楽を聴きながら集中力を高めている荒川選手の耳には、ボーズのノイズキャンセリングヘッドホン「QuietComfort(クワイアットコンフォート) 2」が着けられていたのだ。その後にどんな感動が待っていたかは、皆さんご承知の通り。あのヘッドホンは何だということで、放映後、ボーズには問い合わせが殺到したという。

 「1999年にノイズキャンセリングヘッドホンの第1号機『QuietComfort』が発売されました。最新型に比べますと、オーディオ用途よりも、周囲の騒音の侵入をいかに抑えるかのノイズキャンセリング性能に重点が置かれた設計といっていいでしょう。元々は当社の創業者で現会長のDr.ボーズが、出張中の飛行機の機内でひらめいたアイデア──いかに機内で快適に音楽を聴いて過ごすかという考えをベースしていますが、具体的な形になるまでは3年以上の年月が費やされました。その後、音質と装着性を重視した『QuietComfort 2』が誕生しました」と、ノイズキャンセリングヘッドホンの開発のきっかけを話してくださるのは、同社広報企画部の井上克也さんだ。

ボーズ 広報企画部の井上克也氏
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 ボーズのノイズキャンセリングヘッドホンが他社と違うのは、ノイズを集音するマイクの位置に秘密がある。暗騒音と逆位相の音を作り出し、それを音楽と一緒に再生するという手法は他社でも採用している。だが、問題はどの位置でその暗騒音を拾うかというノウハウだ。

2006年10月に発売された「QuietComfort 3」。こちらもダイレクトストアでの販売のみで、直販価格は4万7250円
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 「当社の結論は、耳に一番近い位置で音を拾ってやるのがいいということです。これは、ハウジングの外のノイズだけでなく、ハウジングを揺さぶって発生した内側の音もノイズとして判断できるということからです。その最適な取り付け位置と信号処理の精度に3年以上の年月を要しました。最新型のQuietComfort 3では、初代モデルで外付けだったバッテリーを内蔵とし、ハウジングの小型化にも成功しました」(井上さん)

 QuietComfortというネーミングは、『静かで快適』というコンセプトをそのまま流用した。一方で「TriPort(トライポート)」という名称のヘッドホンは、採用したテクノロジーのことを指している(ユニット背面に発生する音を制御し、限られたハウジング・スペースでも豊かな低音を再現するボーズの独自技術)。音楽鑑賞という行為だけでなく、より静寂な世界がほしい、あるいはより快適な装着感がほしいというアクティブなユーザーにボーズのヘッドホンは支持されてきた。

 「元々ヘッドホンは、オープンエアとか密閉型といったように方式で分類されていましたが、1970年代末の『ウォークマン』(ソニー)の登場以降、その活用範囲は屋内から屋外へと広がりました。そんなこともあって私どもは、方式ではなく、使用スタイルからネーミングしてみようという発想に至ったのです」(井上さん)

 そうしたポリシーの表れが、最新のヘッドホンのネーミングの由来にもなっている。オンイヤーヘッドホンの「Bose on-ear headphones」、インイヤーヘッドホンの「Bose in-ear headphones」がそれだ。

オンイヤータイプの「Bose on-ear headphones
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インイヤータイプの「Bose in-ear headphones
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 「QuietComfort 3で採用したイヤーパッド部分の形状記憶フォームは、さまざまな耳の形に沿った密着性を可能とし、小型ながらも耳を被わずに遮音性を実現しています。これを生かしたのがオンイヤーヘッドホンです」(井上さん)

 インイヤーは、「流行のカナル型で、いかにボーズらしい装着感が可能か」というチャレンジだったという。耳に押し込むというカナル型の常識と、その不快感を克服するために、前記のTriPortテクノロジーを活用しているのがセールスポイントだ。

 「『インイヤー』いう呼び名に執着したのも、従来のインナー型やカナル型との差別化を打ち出したかったからで、装着の仕方が全く違うのです。押し込むのではなく、耳のくぼみのところに乗せるという感覚です」(井上さん)

 ボーズは、家庭用スピーカーでコンサートホールを再現することをテーマに掲げている。それと同様に、音が横から聴こえて脳内に音が響くのではなく、前方から音が聴こえてライヴ感が味わえるような感覚を大事にしているのが、ボーズのヘッドホンの特色と井上さんは言う。

 音質のみならず、ライヴ感を追求し、さらにはいかに快適さを実現するかというボーズのアプローチは、家庭用スピーカーのコンセプトと何ら変わらないというわけである。次回は試聴インプレッションをお届けしよう

筆者紹介 小原 由夫
おばら・よしお オーディオ&ビジュアル評論家。理工系大学卒業後、測定器エンジニア、AV専門誌の編集者を経て現在に至る。ハードからソフトまでの幅広い知識とそれに基づく評論、解説が支持を得ている。現在「nikkeibp.jp セカンドステージ」にて、「DVD 見方・聴き方・楽しみ方」や「AV評論家のマイホーム建築顛末記/インターネットで建築家と出会った! 家を建てた!」を好評連載中。

著者

小原 由夫(おばら よしお)

オーディオ&ビジュアル評論家。理工系大学卒業後、測定器エンジニア、AV専門誌の編集者を経て現在に至る。ハードからソフトまでの幅広い知識とそれに基づく評論、解説が支持を得ている。現在「nikkei BPnet セカンドステージ」にて、「DVD 見方・聴き方・楽しみ方」を好評連載中。