光ファイバーの一般家庭への普及率が実質世界一となり、ブロードバンド時代を迎えている。インターネットでの動画配信がメインストリームになると言われて久しい。しかし、これまでのところ、インターネットでの動画配信は昔のアニメーションや古いハリウッド映画といったコンテンツが主流で、ユーザーのニーズに応えているとは言い難い。その原因には、インターネット上での動画配信において著作権などの法整備がまだまだ整っていないこと、広告などの収益モデルが出来上がっていないことなどが挙げられる。一方で、「YouTube」でよく見られるような著作権を無視した動画配信は爆発的に増えてきている。

 今後、法整備が進み、広告などの収益モデルが構築されれば動画コンテンツがインターネットの主流になることは間違いない。最近になって、テレビで放映された動画をネットで配信するための肖像権や著作権の法整備も動きだしつつある。ネット広告費が雑誌広告費を抜くのも時間の問題とされているなかで、動画配信への期待は膨らむ。そこで、本コラムでは、インターネット動画配信のキーパーソン3人に「ネット動画のこれから」について聞いてみた。


キーワードは「放送と通信の連携」

 フジテレビと言えば、2005年の買収騒動が記憶に新しい。この時の対応から「インターネット業界とは一線を画すのでは?」と思われていたフジテレビが、インターネットでの動画配信、オリジナルコンテンツ製作に本格参入する。今回お話を伺ったのは、フジテレビがインターネットと地上波で放映するアイドル育成番組「アイドリング!!!」を担当する吉田正樹ゼネラルプロデューサー。地上波という巨大なメディアがインターネットというメディアに対してどういったアプローチをするのか興味深いところだ。

●吉田正樹氏プロフィール
1959年8月13日生まれ。兵庫県出身。東京大学法学部。1983年フジテレビ入社。スポット営業部を経てバラエティ制作に。「オレたちひょうきん族」のADを経て「笑っていいとも!」などを担当。3代目いいとも青年隊。数々の人気お笑いバラエティー番組を中心に演出・プロデュースを担当。
【担当した代表番組】
1989年 「夢で逢えたら」
1994年 「SMAP×SMAP」「めちゃ×2イケてるッ!」「LOVE LOVEあいしてる」(編成担当)
1998年 「笑う犬の生活 -YARANEBA!!-」
2006年 「アイドリング!!!」
【所属】
フジテレビ 編成制作局バラエティー制作センター部長
デジタルコンテンツ局兼務
SBIインベストメント所属 BBメディアファンド運用担当
(撮影:ヤマシタチカコ)

――アイドル育成番組「アイドリング!!!」のインターネット配信を昨秋からスタートしましたが、その主旨や意図を教えてください。

 フジテレビがインターネットでの動画配信に本気になったということです。地上波放送局の中では日本テレビが2年ほど前に「第2日本テレビ」として華々しくインターネットでの放映を打ち上げましたよね。日本テレビのT部長が「電波少年」をやっている頃、ちょうど僕はフジテレビの「笑う犬の生活」をやっていまして、フジテレビVS日本テレビという感じで、常にT部長を意識してきたんですよ。その彼がやる「第2日テレ」を非常に楽しみにしていたんです。しかし、ふたを開けてみると、目玉は「電波少年」の“昨夜の残りカレー”みたいなもので、僕としてはがっかりしました。後に松本人志君のオリジナルコントが出てきて、それは訴求力はありましたけどね。しかし、それは日本テレビだからできたことじゃなく、松本君個人で配信してもいいものだと思います。

 松本君が「ごっつええ感じ」や、「ひとりごっつ」、今で言えば「すべらない話」などをやってきたのはフジテレビなんですよ。このDVDやビデオはかなり売れて、「ごっつええ感じ」は、ビデオの時代に100万本も売れてるんです。だから松本君個人に訴求力があるというのは百も承知なんです。しかし、我々としては、放送局が何をするかということに注目していたわけで、タレントに寄せた形でやったら、放送局というメディアの使命という意味がなくなってしまうのでは、と疑問に思っています。

――それはインターネットの番組が、地上波の番組と同じになってしまうということですか?

 同じと言うか、タレントに寄せた形でないとできないっていうのは、どうなんでしょうか。作品というのは演者がいて、作り手がいて、その相乗効果で作る総合力だと思うんです。「松ちゃん好きなことやっていいよ」では、作り手が具体的に何を作れてるのか? ということへの答えがないんです。フジテレビもIT業界との別の意味での戦いを経て、機が熟して、2006年秋から「アイドリング!!!」のプロジェクトが始まったんです。このプロジェクトを我々は「放送と通信の融合」とは言わなくて「放送と通信の連携」と呼んでいます。「融合」は溶けて同じものになってしまうから、違うものが「連携」する。手を取り合って、携えていくんだけど、合体はしないという考え方です。以前、放送局がIT企業に買われてしまうのでは、という見方もあったんですけど、放送というのは大勢の人が同時に共有する独自の文化なんですね。

――インターネットはどうでしょうか?

 インターネットは個人の嗜好性が高いですね。何万ビューあったと言っても、それはテレビや放送が考えるマスの桁とは2桁ぐらい違います。日本でブームになるというのは、数で言えば8000万人くらいが知っていることだけれど、ネットの世界でブームというと、100万、200万でOKなんです。僕ら放送局側としては、放送のほうが広くて、それを補完する意味でITやネットがあるんではないかと思います。もちろんそれぞれメディアの特徴が違うからオリジナルのコンテンツを作っていかないと、成立しないだろうとは思います。

――インターネットはまだテレビなどの媒体と比べてコンテンツが弱いと感じますね。

 利便性はすごく高いんです。例えば連ドラを見ようとして、今までの話が分からないというときに、前回までの話が見られたら便利ですよね。現実はまだそこには至っていませんが、最終的にはいろんなことがクリアされてそうなるかもしれない。つまり同時性がなくなる。将来的にはテレビのようにその瞬間になんとなく見るものと、ライブラリから引っ張り出すもの、だから「融合」ではなくて、あくまでも「連携」なんですよ。


テレビ番組がネット配信されない理由

 吉田氏はまた、インターネットのライブラリ的な利用法とは別に、新しい連携のさせ方も想定しているという。それはどういうイメージなのだろうか。

 将来のテレビ放送にプラスになるものを選んで積極的にやっていこうと思っています。例えば「あいのり」ですね。ずっと旅しているわけですから、視聴者もここまでの話のいきさつを知りたいだろうと思うんです。今までは番組の中で完結していたものが番組外での展開もできればいいですね。それと、今やっているアイドルの番組「アイドリング!!!」は、地上波の2次利用じゃなくて、コンテンツを最初から立ち上げるというものです。

――コンテンツを最初から立ち上げるメリットはなんですか?

 映画などとは根本的に契約が違い、テレビは基本的に1回だけの放送で、未来永劫見られるという想定で契約していないので、テレビを別の形で配信、2次利用することに対しては、権利者のナーバスな気持ちというか、なし崩しにされては困るみたいなところが結構あります。そこがネックになっていました。そこで、フジテレビは嘘なしで全部オープンにするから、納得してやりませんかということで番組ができたんです。

 他局ですが、仕組みを作っちゃってから「認めてください」と各方面にお願いに行ったことがあったんです。そういうのは不信感につながるし、それをちょっとがっかりした気持ちで見ていたので。やるならみんながハッピーになるようにやりたいですね。

――具体的にどういった権利者とのやり取りが必要なんですか?

 実演家団体がいくつかありまして。なかなかネット配信がスムーズにいかない原因には、それらの団体の慎重姿勢がありますね。映画は権利が固定されてますが、テレビは著作権法が想定されてなくて、放送するためにビデオテープには撮るけど、それ自体は権利じゃないんです。放送する権利というだけです。ここを根本的に変えないと、自由にできないですね。

――それが理由でテレビ番組がインターネットで配信されないんですか?

 そうですね。そこが大きいです。ただ、映画でも問題になっているのは、一度ギャラをもらってしまえば後はどうされても勝手なところがあって、そういう不公平感が役者さん、アーティスト側にもあるわけです。音楽の世界は使用した分だけ、ちゃんと実演家にも作曲家にもお金が入るっていう仕組みができていますが、テレビはできてないんです。今は実験しながらじゃないと進んでいかないですね。

――そういった試みを打開というか、次の形を作り出そうというのが、“オリジナルコンテンツ”ですよね。

吉田氏がプロデュースする「アイドリング!!!」

 そうですね。かつ、育成する番組です。松本君のようなビッグな人を連れてきて広げるというベクトルがあります。一方、「アイドリング!!!」のように無名のタレントの価値を上げて、コンテンツの価値を上げていというベクトルもあります。これだと、我々にも、実演家にもメリットがある。そして、得られた果実については、(製作側と実演家で)ちゃんとシェアしていくわけです。

――既存のテレビ番組とインターネットのコンテンツで権利の違いはありますか? 「アイドリング!!!」を例に教えてください。

 契約書を取り交わして、配信の部分までのギャラを支払います。今までは、テレビに出てくださいと言えば地上波放送のことですよね。その後で、これも使いたい、あれも使いたいという順番になって「じゃあその分は何%か払います」という話でした。「アイドリング!!!」に関しては、まずCS放送、それからフジテレビオンデマンド配信に利用します。さらにWebとモバイルについてこういう利用をします、そこまで契約書に書いてあるんです。そういうことを全部見える形にしています。

――今のお話ですと、決まっているのは使用分に関しての契約で、そもそもの番組の著作権のありかというところまでは至ってない感じですか?

 例えば、番組のグッズやキャラクター権。これに関してはその都度協議をするという状況です。これはどのくらいお金を取れるか分からないですし、グッズでも写真だけ使うのか、本人たちがゲームの中に出てくるのかによっては違ってくるので、そこまでは視野に入れられないですね。

――とりあえず今ある状態を見えるようにするのがこの番組の1つのテーマですね。

 番組は1年半続ける予定なんです。ただし、権利者との話し合いで、半年間やってみて、もう1回これでいいかを議論しようという実験的なところもあります。納得するまでスタートしないのでは、何が問題かが分からないから、とりあえずすべてオープンにしながら、半年後に契約を見直しましょうということです。

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