メディアで報じられるアメリカ発のニュースというと、国際問題だったり最新技術だったり企業最前線だったり。でも、アメリカでもネットで普通に盛り上がっているのは、やっぱり日本と同じような身の回りの話題が中心。アメリカの“お茶の間”ではどんなことが話題になっているのか--アメリカ在住の主婦兼ライターのウォール真木がレポートします。


 今年のアメリカは中間選挙の年。ミズーリでも上院議員を始め、州各地の政治的責任者や裁判官を選ぶ投票が、11月の7日に総選挙として行われます。とはいえ、この州の選挙ネタなんて、日本人の皆さんにはあまりなじみのない話ですよね。実際アメリカ国内でも、カルフォルニア州のような影響力の大きい場所ならともかく、たかが中西部に位置する1つの州で行われる選挙の結果なんて、そう注目されるはずもございません。

 しかし、たった今思い出した話ですが、以前に「死人が当選した州」としてミズーリがニュースになったことはあります(笑)。これは1999年に上院選直前に、飛行機事故で亡くなったメル・カナハン候補のこと。選挙直前に志し果たせず亡くなったとして同情票も集まったのでしょう。対抗馬の候補が活動を自粛している間に、あれよあれよと支持率が上昇。結果的に当選して、代わりに未亡人のジーン・カナハンさんが未経験ながらいきなり上院議員として政治家デビューするという、異例の事態になりました。なんでも州の法律では、死亡者が当選した場合も代理(家族等)を任命することができるそうで、その制度を使ったようです。

 とはいえ、上の出来事のように全米ニュースになる話題は通常皆無のミズーリ選挙戦。ある意味、そんな注目されない「のんびりしたところ」がこの州の長所、なんて住んでいる自分は感じているのですが(笑)。

 ところが、ところが。例年と違って今年のミズーリ選は熱い!

 事の始まりは、総選挙にともなって行われる州憲法改正への賛否投票です。これは「Constitutional Amendment 2」と呼ばれているカテゴリ。もし改正に賛成なら、いろいろな難病の治療につながると言われているヒト胚(はい)性幹細胞(ES細胞)の研究をミズーリ州で(制限付きで)許可する。反対なら同州での研究活動は一切禁止というもの。このES細胞研究に対しては、米国では「卵子は受精した瞬間に『人間』である。その生命体を利用することは許せない」という意見と、「不治の病を治療するための有効な手段であり、細胞自体に『人間』であるという意思はまだない」と医療への貢献価値を強調する意見に両極端に分かれています。

 さらに政治的にも保守派の共和党は前者、リベラルな民主党は後者を支持し、これが選挙戦の重要な論争ポイントとして以前から激しい戦いを繰り広げているのです。逆を言えばES細胞研究の賛否が今回の中間選挙、さらに2年後の大統領選挙に大きく影響してくるということ。そんな時にミズーリ州での総選挙、この結果が大きな布石となることは間違いないでしょう。

 そんな状況の中、政治家はいかに人々の注目を集めるか、どれだけ影響力のあるメッセージを発するか躍起になっているのです。さらにこの激戦を過熱させた一要素が、先のセントルイス・カージナルスとデトロイト・タイガースが戦ったMLBワールドシリーズ。多くのミズーリアンがテレビに釘付けになるこのイベントの放映枠に、上院議員候補たちがここぞとばかりにインパクトの強い選挙コマーシャルを流したのです。

 その中でも見る人を驚かせた1本が民主党のクレア・マカスキル候補を支持するCM。元俳優のマイケル・J・フォックスが有権者に「ES細胞研究に賛成を!」と訴える内容なのですが、彼は持病のパーキンソン病の症状をあらわにした姿で登場しました。自分の意思で体の震えを阻止できないというこの病気、フォックスは15年前からパーキンソンに苦しみ、2000年にはとうとう俳優活動を断念。かつてはテレビドラマシリーズ「ファミリータイズ」や映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズでお茶の間の人気を集めていた彼が久々に公の場に現れたものの、その姿はかなりショッキングなものだったのです。

フォックスのCMは「YouTube」でも見ることができます。ES細胞研究の大切さを訴えています

 もちろんこのCMはミズーリだけに限らず全米で大きな話題に。さらに民主党は同州出身のミュージシャン、シェリル・クロウをCMに採用してES研究の大切さを訴えました。

ミズーリ出身のセレブ、シェリル・クロウ。彼女自身も乳がんで闘病生活を送ったばかり。がん治療にも役立つと期待されるES細胞研究を支持しています

 しかし、これに対して共和党側も黙ってはいません。まず保守派で有名なラジオ番組のホストが「フォックスのCMの様子は、自分の病を強調するための『演技』ではないか」と批判(後にフォックスはCBSネットワークのインタビューでこれを否定)。さらにワールドシリーズ開催中に間に合うようにと急きょ撮影された共和党CMには、カージナルスのジェフ・スッパン投手、カンサスシティー・ロイヤルズのマイク・スウィーニー投手、元NFLセントルイス・ラムズのカート・ワーナー選手(現アリゾナ・カージナルス所属)などが出演。地元スポーツファンにはなじみの深い人物を配して対抗してきたのです。うーむ、有名人使いまくりですね。

フォックスの民主党応援CMに対抗する形で放映された共和党のCM(左上:ジェフ・スッパン 右上:マイク・スウィーニー 左下:カート・ワーナー 右下:ジム・カヴィーゼル)。アスリート出演者に交じって出演しているのは俳優ジム・カヴィーゼル。映画「パッション」でキリストを演じたこともあり、保守派の多いキリスト教徒にもアピールする内容となっています

 このCM合戦、このままいくと11月7日の投票当日まで続きそうな雰囲気。果たしてセレブたちの政党応援CM、その影響力はどこまで及ぶのか。この記事が公開された頃には投票は終わっていますが、さてミズーリの結果はどうなったでしょうか。

筆者紹介 ウォール真木(うぉーる・まき)
海外生活がそろそろ人生の半分にリーチしかけている主婦兼ライター。主にインターネットからの情報で日本人のアイデンティティーを保持しているつもりだが、周囲からは否定されている。現在2児の母で子育てに奮闘しつつ、Narinari.comで執筆活動中である。著書に「アメリカの弁護士は救急車を追いかける―アメリカの不思議なジョーシキ114」(宝島社文庫)