今年の屋久島は、2月に記録的な暖かさが続き、春の訪れがとにかく早かった。気がつけば、道端では「つわんこ(=つわぶきの新芽)」がすくすく育ち、タラの芽も大きく葉を広げ、今年は春の味覚を堪能しないまま旬を過ぎてしまった。桜の開花も例年に比べてはるかに早く、里ではソメイヨシノが2月のうちに見ごろを終え、山を駆け上がるように咲いていくヤマザクラも、いつになく急ぎ足だった。
苔むす森が美しい白谷雲水峡の最奥部から、さらに小一時間ほど歩いたところに太鼓岩と呼ばれる場所がある。屋久島の主峰群を一望できるビュースポットで、ヤマザクラの咲く季節はとりわけ美しく、新緑とともに春の山を鮮やかに彩る。僕も毎年足を運んでいるのだが、この時期の天候は安定せず、風の強い日も多いため、満開に合わせてドンピシャのタイミングで花見をするのはなかなか難しい。例年4月10日前後に見ごろを迎えるのだが、今年は2週間ほど早まりそうだと聞いていたので、ぼちぼちそのタイミングを探っていた。
3月下旬のある日、この時期にしては珍しく肌寒い朝を迎えたが、空はすっきりと晴れ渡り、花見をするには上々の天気に恵まれた。ここ数日の間に大雨と強風に見舞われ、花の具合が心配ではあったが、週間天気予報を見る限りでは、この日が最後のチャンスとなりそうだったので、弁当とコーヒーを持って「お花見トレッキング」へ出かけることにした。
太鼓岩までは、白谷雲水峡からアプローチするのが一般的なルートだが、僕はあえて遠回りとなる荒川登山口から歩くことにした。ルート上にもうひとつ、桜の名所があるからだ。そこは小杉谷と呼ばれる、かつて屋久杉伐採の前進基地として栄えた場所で、昭和30年代半ばには500人以上が暮らしていたという集落の跡地だ。その一角には小・中学校跡もあり、校門付近にはソメイヨシノが植えられ、ヤマザクラとの競演はなかなかだ。荒川登山口から太鼓岩に至るルートは、まさに屋久島の「お花見街道」といえよう。





