
再びふたつの橋をくぐり抜けると、どこまでも開放的だった大海原から一転し、周囲を山に囲まれた峡谷へと漁船は切り込んでいく。両岸に照葉樹林の切り立つ渓谷をゆっくり遡上しながら、今度はこんもりした緑の風景を堪能する。海と山が密接する屋久島だからこそ、これほど劇的な景色の変化が楽しめるのだ。
「お母さん、何か食べていい?」
どうやら娘はお腹が空いたらしく、クーラーボックスを開けて物色し始めた。それもそのはずで、気がつけばすでに1時を回っている。
「いつものトコに上陸したらバーベキューをするから、もうちょっと我慢したら?」
妻は簡単にそう言うが、炭をおこすのは僕たち父親の仕事だ。火が着くまでそれなりに時間を要するわけで、上陸してすぐに食事に有りつけるわけではない。
曲がりくねったカーブをひとつ、ふたつ抜け、いつもの中州が見えてくると、カヤックが何艇か砂浜に上陸していた。海では小さく感じても、川ではひと際大きな漁船。上陸するのに十分なスペースはなさそうだ。それでも友人は巧みな操舵で船をゆっくり岸に寄せる。




