以前から気になっていた滝がある。島の南部に位置する「鈴川(すずこ)の滝」だ。何でも端整な軌跡を描いて流れ落ちる美しい滝で、周囲を巨岩と森に囲まれた、ひそかな場所にあるという。いかにも“秘境感”に満ちていそうなロケーションに、僕の好奇心はかき立てられ、いつか訪れてみようと思っていた。
ところが地図を見ても、里から遠くない場所にあるものの、道はしるされていない。鈴川の滝を擁する鈴川は、周辺集落の水源になっているらしく、滝付近から水路を引いているという。その水路伝いに歩いていけば辿り着くという話も聞くが、それがどこを通っているのか分からない。結局は友人から情報を得て、どうにか森に踏み入るポイントだけは掴んだのだった。
そしてある日、前日までの雨が上がると、朝から清々しい青空が広がった。そんな日こそ、滝を見ながらのんびりするには絶好の天気。まさしく「滝見日和」だ。
「そうだ、鈴川の滝に行ってみるか……」

しばらく忘れていた鈴川の滝のことを、ふと思い出し、「思い立ったが吉日」とばかりに、クルマを南へと走らせる。我が家から20分ほどで、友人から教えてもらったポイントまでやってきた。クルマを降りると、どこからともなく、水の流れる音が聞こえてくる。そしてガサガサと草をかき分けて森に踏み入ると、すぐのところに水路はあった。
「あ、これか!」
おそらくこの水路が、滝の近くまで続いているに違いない。人工物ではあるものの、小川のせせらぎを思わせる穏やかな水の音が、耳を心地よく刺激する。急峻な地形を成す屋久島では、あまり耳にすることのない音だ。そんなやわらかな水の音を楽しみながら、木漏れ日の降りそそぐ照葉樹の森を歩いていると、次第に馴染みのある、水の躍動する音が入り交じるようになる。鈴川だ。




