僕は南の島に移住しながらも、この島にもしっかり訪れる冬が好きだ。「寒いのが苦手だから南の島に移住した」などという話をよく耳にするが、僕はそうではない。暖かいのも寒いのも、はたまた暑いのも、それぞれ好きなのだ。要するに単なる欲張りなのだが、日本にはせっかく四季があるわけで、ありがたく楽しまないともったいない。
1月も下旬に入ると、屋久島もようやく冬らしい寒さを感じるようになった。寒いといっても例年に比べれば冷え込みは緩く、山へと向かう「ヤクスギランド線」が雪の影響で通行止めになったのは、年末年始に列島を襲った寒波のときだけ。それ以来しばらくは、秋のような春のような、中途半端な暖かさが漂っていた。それがようやく少し冷え込んできたのである。
寒くなったら寒くなったで、今度は春の暖かさが恋しくなるのが人情というもの。あるとき、温暖な島の南部にある「蛇之口(じゃのくち)滝ハイキングコース」を、ふと歩きたくなった。冬に雪山を歩くのもいいが、亜熱帯の森を歩くのもなかなか乙なものだ。実は思い立った理由はもうひとつある。それは登山口に「尾之間(おのあいだ)温泉」が隣接していること。どちらの理由がメインかはさておき、寒いときにしびれるような熱い湯に身を沈めるのは、冬の楽しみのひとつだ。
久しぶりに晴れ間が覗いたある朝、どちらかというと温泉に思いを馳せながら、登山口を目指す。我が家から尾之間温泉まではクルマで20分ほどの距離。温泉の駐車場でクルマを降りると、屋久島の北海道とも称される我が船行(ふなゆき)集落に比べると、同じ島とは思えないほどに暖かい。クルマの温度計によるとその差は3〜4度。島の南部は季節風が当たらない分、体感的には5〜6度の違いはありそうだ。
目指す蛇之口滝までは片道約4キロ、標高差も400メートル余りとそれなりにある。ハイキングコースと銘打っているものの、軽装でぶらりと行けるほどラクなコースではない。湯気の立ち上る足湯のわきで、かすかに硫黄の匂いが漂う中、まずは準備体操。





