「いつかまた、“リベンジ”しに来よう」
そう誓った山がある。里に隣接する前岳ながら、標高1235メートルを誇る「愛子(あいこ)岳」だ。島の東に位置する小瀬田(こせだ)集落の人々が崇めるご神山で、屋久島空港に降り立つと、正面にひと際目を引く三角錐の頂を擁する山がそれだ。

山頂には360度の絶景が広がるとあって、今から2年ほど前の冬に登ったことがあった。海岸に程近い場所にある登山口から、標高差1000メートル以上を一気に登り詰める屋久島屈指の厳しい山だが、東の眼下には太平洋の大海原、西の正面には屋久島の中央山群を一望する、これまた屋久島屈指の眺望が広がる。ところが僕が登頂したその日は、雲ひとつない晴天に恵まれたものの、島全体が霞がかったような空気に包まれ、すぐそこに浮かんでいるはずの種子島さえ見えなかった。
「文句なしの完璧な風景を、ここから見てみたい」
そのとき僕は、山頂に至るまでの、山伏の修験のような厳しい道程のことなどすっかり忘れて、不覚にもそんなことを思ってしまったのだった。
今年もようやく秋が深まり、南国の里山を歩くにはちょうどいい季節を迎えると、あのときのことをふと思い出し、久しぶりに愛子岳に登ろうかという気になった。それでもあの厳しいルートを行くには、高いモチベーションが必要だ。ならば、天候条件がいいのは大前提だが、九州本土やその端正な山容から薩摩富士とも称される開聞岳(924m)までもが、すっきりと見渡せるときに登るしかない。そう考えた。
それから数週間が過ぎたある朝、山には少々雲がかかっていたものの、我が家のベランダからは、種子島の白いビーチが肉眼でも確認できるほどに、くっきりと見えていた。前日の雨がよどんだ空気を洗い流してくれたようだ。開聞岳まで見えるかどうかは分からなかったが、気持ちが萎えるほどのくそ重たいカメラザックをクルマに積み込むと、とりあえず登山口へと走る。家を出て間もなく、空港手前の左カーブを抜けると、水平線に浮かぶ大隅半島と開聞岳のシルエットが目に飛び込んできた。愛子岳は山頂部に薄雲がかかっているだけだ。北よりの風が少し強いのが気になったが、思い切ってこの日にかけてみることにした。




