(前編はこちら)
両足が攣ったのは、かつてアドベンチャーレースに出場したとき以来だ。やはりトレーニングもせずに島を自転車で一周しようというのは、無謀だったか……。
しばらくして足が動かせるようになると、ストレッチを入念に施し、とりあえず自転車を押しながらゆっくり歩き出す。県道に出たら恐る恐るこいでみるが、もはや僕の太ももは「一触即発」状態。だましだましペダリングを続け、ひたすら上り詰める。 ようやく西部林道の世界遺産登録エリアに入ると、ヤクザルの群れに出くわした。以前に一度だけ、クルマで走っていたら突然ボスザルと思われる大きなサルに追いかけられたことがある。クルマと違って自転車は体がむき出しだ。

サルとすれ違う瞬間、僕とサルの双方に緊張が走る。もしもあのときのスピードで追いかけられたら、疲労し切ったこの足では逃げ切れるはずもない。サルの視線を感じながら、なるべく刺激を与えないように走り抜ける。何事もなく通り過ぎ、緊張も緩むと、木漏れ日の揺らめく照葉樹の森の中を、ぼんやりしながらこぎ続けた。
ガサガサガサッ、ドンッ、パカラッ、パカラッ……。
それはあまりに突然で、一瞬の出来事だった。僕の走っているすぐ目の前に、子ジカが転げ落ちてきたのだ。反射的に急ブレーキを掛け、ギリギリのところで衝突は免れたが、子ジカは慌てふためいて立ち上がり、ひづめで甲高い音を森に響かせながら逃げ去った。クルマと違って自転車はエンジン音がしないから、おそらくすれ違いざまに僕に気づいて、驚いて山の斜面から滑落してきたのだろう。「サルも木から落ちる」とはいうが、シカが山から落ちてくるのははじめて見た。




