3月に入ってからというもの、屋久島は雨の日ばかりが続いていた。時折晴れ間が覗く日はあっても、1日か2日程度しか持ちこたえず、再びどんよりと雨が降りそそぐ。毎年この時期はそんな天気で、年間を通しても降雨量の比較的多い季節だ。
地元ではこの時期に降る雨を、「木の芽流し」という何とも風流な言い回しをする。いわゆる菜種梅雨のことだが、屋久島のそれはシトシトと降り続くような一般的な菜種梅雨のイメージとは異なり、その名の通り森全体をサーッとシャワーで洗い流すような、強い雨が降り続く。この季節の木々たちにとっては恵みの雨で、この雨に叩かれて、促されるように色鮮やかな若葉を一斉に芽吹く。ひと雨ごとに森は新緑の輝きを増し、一年で最も生命力に満ちあふれる季節がやがて訪れる。
雨上がりのある日の午後、新緑の具合が気がかりだったので、ドライブがてら様子を見に行ってみることにした。家を出てすぐ、前岳の山々を仰ぎ見ると、すでに新緑がポツポツと山肌に彩りを加えていた。ここしばらく、山は雲のベールに包まれることが多かったせいか、その色の変化に気づかなかった。あるいは、このひと雨ふた雨で、一斉に芽吹いたのかもしれない。
クルマをさらに南へと走らせていると、少しずつ雲が切れはじめた。途中で農道へと入り、よく訪れるお気に入りの場所に立ち寄ってみる。照葉樹の森の中にぽっかりと穴が開き、そこから周囲の空気を震わすほどの大きな音を轟かせながら、白く泡立った水が間断なくあふれ出てくる。「竜神の滝」だ。雨上がりの水量豊富な滝の存在感もなかなかだが、「木の芽流し」を浴びた木々たちも、恵みの水滴をまだ葉に残しながら、若々しいいのちの輝きを周囲に放っていた。





