僕の仕事部屋には暖房がない。「南の島だから暖房は不要」と思いきや、屋久島の冬は案外寒く、どの家にも暖房はあるのが一般的だ。東京から移住してきた僕たちは、島の人よりは寒さに慣れている。屋久島で最も寒いと言われる船行集落でも、普段の寒さなら「ウォームビズ」だけで充分対応可能だ。いつもは山で活躍するダウンのベストとテントシューズを着用すれば、かなりの寒さまでいける。ロハスな暮らしにおいて、アウトドアグッズが有効なシチュエーションは多い。
1月も終わろうという頃、南国屋久島もようやく冬らしい寒い日が続くようになった。さすがに一家団らんの時間を、家族全員ダウンを羽織って過ごすのもかえって心が寒々しいので、我が家でも今年になってはじめてストーブに火を点けた。一年前の古い灯油は使わないほうがいいと聞くが、別段変色しているわけでもなかったので、そのまま使うことに。あわよくば、今年の冬は灯油を買わなくても凌げるのではないかと思っていたが、ここにきて一気に消費量が増し、2月に入ってすぐの晩に切らしてしまった。
翌朝、一段と冷え込みが厳しかったが、すでにストーブは使えず、家族揃ってコタツにもぐり込む。外は雨が降っているようだが、雨にしては少し音が違う。夜明け前のまだ暗い中、窓を開け、部屋の灯りを頼りに目を凝らすと、白い粒がカンカンと甲高い音をたてて、ベランダの手すりの上で弾けていた。
「あられだよ。どうりで寒いわけだ」
7時過ぎにようやく明るくなり、もう一度外を見てみると、クルマのルーフとフロントガラスには雪が積もり、隣のみかん畑もうっすらと雪化粧をしている。あられは雨に変わることなく、強くなったり弱くなったりしながら降りしきっていた。

「さすがに灯油を買わないとダメかしら…」
「しばらく寒い日が続きそうだからね。朝ごはん食べたら、買ってくるよ」
さすがにこの寒さでは、「ウォームビズ」だけで仕事をするには少々厳しい。家族のみんなが出掛けたら、一家に一台しかないストーブを仕事部屋に移動して使おうと考えていたので、朝のうちに灯油を仕入れておきたかった。
外に出て家の裏に聳える前岳を見上げると、いつもは緑のこんもりした山の風景が、白い雪山の風景に姿を変えていた。隣のみかん畑の入り口は、ぽとりと落ちたツバキの花のピンクと、パウダーシュガーを振りかけたような雪の柔らかな白が、美しいコントラストを描いている。我が家の周りの風景は、まるで南の島とは思えない、寒々しい北国の風情を漂わせていた。




