屋久島は、およそ1400万年前に花崗岩が隆起してできた島だといわれている。悠久の年月を経て、深い海の底から、やがて海面を突き抜け、標高2000m近い山岳島となったのである。「洋上のアルプス」と称されるゆえんだ。
海に屹立する屋久島。海から仰ぎ見るその風景は、いったいどんなだろう。いつも見る島の風景とは、全く違った表情をしているに違いない。以前から僕は、まだ見ぬその風景に思いを馳せ、いつしか見たいと願っていた。もちろんフェリーや高速船からは何度も見ているが、港の見えるような、そんな姿ではない。もっと圧倒的な、迫りくるような島の風景があるはずだ。それを見たいと思っていた。
「今度一緒に釣りに行きましょうよ、ウチの船で」
ある日、よく行くすし居酒屋のお兄さんが、久しぶりに店を訪れた僕を誘ってくれた。毎朝船で漁に出ているので、それに乗せてくれるというのだ。釣りも楽しみだが、漁船で海へ出るとなれば、迫力のあるこの島の風景に出会えるに違いない。以前から誘われていたのだが、いつも機会を逃していた。今回はようやく都合をつけて、連れて行ってもらうことになった。
当日は絶好の天気に恵まれた。我が家のベランダから海を見る限りでは、至って穏やかだ。クルマに乗り込み、島の南に位置する平内(ひらうち)の漁港を目指す。途中、クルマを走らせながら海を見ると、白波が立ちはじめていた。屋久島は、その日の風向き次第で、海の状況が場所によってまったく違う。いやな予感だ…。
待ち合わせの漁港で合流すると、早速船に乗り込む。
「今日は風が強いから、かなり揺れるよ」
やっぱりそうか。船酔いしなければいいのだが…。磯に囲まれた迷路のような入り江を抜けるとすぐに、大きな波が小さな船に向って、次から次へと押し寄せてくる。と同時に、荒々しくも美しい島の風景が目に飛び込んできた。船酔いのことなど気にしている場合ではない。群青色の海に屹立する断崖は、まさに自然のもたらした造形美。その断崖の岩肌からはすぐに森が形成され、奥の山へとつながっている。島の中央部に聳える奥岳の峰々は、残念ながらこの位置から望むことはできないものの、この景観はまさしく、洋上に浮かぶアルプス…。





