「奥岳」。屋久島の中央部に連なる峰々を総称して、地元ではそのように呼ぶ。里からは、「前岳」と呼ばれる手前の山々に遮られ、奥岳を望むことはほとんど出来ない。古くから奥岳は神々の宿る聖域とされ、島人たちは畏れ、崇めてきた。
そうした山岳信仰の現れとして、今なお残る「岳参り(たけまいり)」。各集落で毎年1回ないし2回行われる伝統行事のひとつで、その集落から望む前岳や奥岳の山頂などに祀られる「一品宝珠大権現(いっぽんほうじゅだいごんげん)」(=屋久島を司る神)を詣で、豊漁豊作や家内安全などを祈願する参詣登山だ。現在では、簡略化して前岳のみに参拝する集落や、岳参りそのものが廃れてしまった集落もある。
僕の住む船行(ふなゆき)集落では、毎年9月に岳参りが執り行われる。船行のご神山は、集落の背後に聳える三野岳(みのだけ・943m)。我が家からも山頂だけはかろうじて望める。かつては二手に分かれて明星岳(651m)にも登ったそうだが、今では登る人も少なくなり、三野岳のみの参詣になってしまったという。ここ数年は二人のみが参詣に登っていたが、今年は船行に引っ越して間もない僕にもお声が掛かったので、ふたつ返事で同行させてもらうことにした。
9月18日。前日に台風が上陸し、中止になるかと危ぶまれたが、夜のうちに屋久島を抜け、穏やかな朝を迎えた。朝5時半。まだ夜の明けない暗い中、まずは近くの田代海岸へと向う。踏み跡のない砂浜で、神に捧げる砂を拾うためだ。この砂と、海と里の恵みである塩と米、そしてお神酒を一緒に捧げるのだそうだ。
日の出を拝んだら、集落内にある船行神社でお清めをして、いよいよ登山口を目指す。そこまではクルマで向うが、普段は通ることのない道なので、一見道があるとは思えないような、茂みの中を突き進む。行き止まりまで来ると、そこは杉林に囲まれていた。林床には南国らしく、シダやクワズイモが繁茂し、登山道らしいものは何も見当たらない。





