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近所の秘境

2006年9月19日

秋雨前線の影響で、しばらくぐずついた天気が続いていた。さらに台風13号が接近していたため、せっかくの連休も好天を望むことは出来そうになかった。ところが、突然土曜日だけぽっかりと晴れ間が出た。天気予報からは想像出来なかったほどの、気持ちのいい青空が広がった。こうなると屋久島には、当たり前のように夏の日射しが降りそそぐ。しばらく鳴りを潜めていたセミたちも、ここぞとばかりに、朝からけたたましく鳴いていた。

「久しぶりにどっかへ行こうか?」

台風で家に缶詰状態になる前に、子供たちの“ガス抜き”をしておいたほうがよかろう。

「海に行きたいっ!」

この暑さなら、そう思う気持ちはよく分かる。

「海は台風で荒れているからダメだな」

「じゃあ、川―っ!」

「よし、どこの川にしようか?」

僕たちお気に入りの川はいくつかあるが、いずれも我が家からは少し遠い場所にある。遠いといっても、最大クルマで1時間の距離だが、島に住み慣れてくると、たった1時間の距離が億劫になってくる。普段の行動範囲がいかに狭くなったか、ということだ。

「たまには違う川へ行ってみようよ」

具体的なアイデアがあるわけではなかったが、提案してみた。

「どこの川?」

家から近くて、子供たちが比較的安全に遊べる、きれいな川…。僕の頭の中にあるデータから必死に検索してみる。すべての条件を満たしてはいないが、思い当たる場所が一箇所あった。一度ちらりと見に行ったことのある川だが、川原に下りたわけではなく、子供が遊べるような川かどうかが分からなかった。

「行ったことない川だけど、近くだからとりあえず行ってみよう。水着を持ったら出発するぞ」

クルマで走ること10分少々。僕たちはすでに、山深い風景の中にいた。橋の上から川をのぞき込んでみると、澄み切ったきれいな水が流れている。しかし、川が見えるのはわずかな範囲で、上流も下流も森に覆われ、その様子は全く分からない。橋のたもとにクルマを停め、川原へ下りてみる。橋の上からは見えなかった上流に目を向けると、うっそうとした森のトンネルの中を、川は涼やかに流れていた。両岸には山がせり立ち、木々やシダ植物が川に覆いかぶさるように繁茂している。まさに秘境と呼ぶに相応しい風景が、隠れるようにそこにあった。清冽な川の流れは比較的緩やかで、浅瀬が続いている。急流の多い屋久島には珍しく、穏やかで女性的な川だ。子供たちがザブザブ遊ぶのにもちょうどいい。

「今日の遊び場はここに決定! 足元に気をつけて、下りておいで」

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