昼間はじっとりとした南国らしい夏の暑さも、夕暮れどきになれば、山から吹く風でスーッと和らぐ。川沿いともなれば、いっそう涼やかな風が吹き抜ける。夕暮れの河畔は、火照った体を癒すにはもってこいだ。
屋久島には、そんな夏の宵をさらに涼しく楽しむ、風流な遊びがある。流れ船だ。流れ船とは、いわゆる屋形船に乗ってゆっくりと川を流れながら納涼を楽しむ、昔ながらの大人の川遊びだ。
島の東を流れる安房川は、わずか1〜2キロほど遡ると、V字谷の荘厳な渓谷美を見せる。昼間は若者たちの漕ぐ、色鮮やかなカヤックが点々と川面に浮かび、夕暮れになると、今度は大人たちが流れ船で繰り出す。どちらも屋久島の夏の風物詩だ。事実上、中年の域に入っている僕は、自力で漕ぐカヤックもいいのだが、それよりも人任せでまったりと流れている船に、風情を感じて止まなかった。

8月も終わろうというある日、仲間うちで流れ船に乗って「のんかた」(=飲み会の方言)をしようということになった。いよいよ憧れの流れ船に乗るチャンスがやってきたのだ。もうすぐ9月とはいえ、南の島の夏はまだまだ衰えを見せない。この日もいつもと変わらない暑さで、夕方になるのが待ち遠しかった。
流れ船の出港予定時刻は夕方6時半から7時の間。この曖昧さが、まさに「島時間」。いい意味で適当だ。涼やかな風の吹く河畔で、ぼんやり待つ時間も悪くない。ぼちぼちと全員揃ったら、仕入れてきたビールや焼酎、そしてつまみの料理を抱えて船に乗り込む。屋久島の流れ船は、船のチャーター料金のみを支払い、飲み物や食べ物は持ち込むといったスタイルが主流のようだ。東京にいた頃、隅田川かどこかの屋形船に乗ったことがあるが、大した料理も出ずに結構な料金を支払った記憶がある。しかも人数割りではなく、一人いくらという料金体系だった。それに比べれば、合理的だ。




