
屋久島を一周すると105kmある。最近はバイパスなども通っているので、多少のズレはありそうだが、ほぼ100kmという分かりやすい距離といえる。東京のサラリーマン時代、ランニング業界に携わっていた僕は、移住してくる以前から、「屋久島一周はウルトラマラソン(※)にちょうどいい」などと思っていた。ところが屋久島は、「屋久町」と「上屋久町」に行政が分かれていて、島を一周するようなマラソン大会を公に開催するのは難しい。過去にも実現しなかった例がいくつかあった。
それが今回、来年度開催に向けての「プレ大会」ではあるが、屋久島を一周するウルトラマラソンが実現した。主催は「ミラクル屋久島105マラソン・プレ大会実行委員会」という「ウルトラ好き」の集まりだが、後援には屋久島観光協会の他、屋久町と上屋久町が共に名を連ねている。島民にとってみると、両町が手を結ぶのは、まさに奇跡。いよいよ両町合併に向けての軌跡を、描きはじめたように思えた。
3月12日、日曜日。ウルトラランナーたちが、夜明け前のまだ暗い中、島のほぼ南端に位置する屋久町役場前のスタート地点に集まってきた。この業界の第一人者、「シンガーソング・ランナー」とも呼ばれている、高石ともや氏の顔もある。久しぶりの「現場」に、僕は何の違和感もなく、そこにいた。走るわけではなかったが、胸の高鳴りを感じていた。
午前5時。まだ暗く、いつもは静かな島の一角に、ピストルの音が鳴り響く。ウルトラランナーたちの長い一日のはじまりだ。天候は曇り。ランナーにとってはまずまずのコンディションだったが、このあとの予報は雨。屋久島らしい洗礼が待ち受けていた。
僕の住む安房は、スタートから約20km地点。ランナーたちがここを通過する頃、すでに夜は明け、ポツポツと雨も降り出していた。そして30km地点の手前、町を分ける落川を渡ったところで、屋久町から上屋久町へと、サポートカーのリレーが行われる。歴史的な瞬間だ。雨はだんだんとその足を強め、いつものどしゃ降りになっていた。このあたりは晴れていれば、美しい山容の愛子岳を仰げるのだが、山は一寸もその姿を見せなかった。
※:フルマラソン(42.195km)を超える距離を走るマラソンのこと。訳して超長距離走。国際陸連はウルトラマラソンのスタンダードとして100kmを公認している。




