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味覚で感じる春

2006年3月13日

春が目に見えてやって来た。島の西側、西部林道を走っていると、新芽の明るい緑の葉が目立ちはじめ、初々しい生命力を放ちはじめている。最高気温も20度前後を行ったり来たりするようになり、ほとんど上着も不要になった。視覚的にも体感的にも、春の確かな訪れを実感できる。

そしてもうひとつ、春はやっぱり味覚で感じるのがいい。屋久島は山岳の島。海の幸にも恵まれているが、山の幸も豊富だ。海と山がすぐの距離で密接につながる屋久島では、なんと海岸でも山菜が採れる。海と山、両方の恵みを、季節の移ろいを感じながらありがたくいただく。これこそ、この島に暮らす醍醐味だ。

2月も中旬頃になると、山菜の話題をあちらこちらで耳にするようになる。「そろそろ、たらの芽が採れそうだ」とか、「あそこのはもう、誰かに採られていた」とか…。この時期、主なターゲットはやはり「たらの芽」のようだ。山菜の王様といわれるだけあって、天ぷらにすると絶品だ。

ちなみに、たらの芽とは、ウコギ科の落葉低木「タラノキ」の新芽のこと。かくいう僕は恥ずかしながら、摘み取られたたらの芽は見たことがあっても、いったいどんなところに、どんなふうに芽吹いているのかは、ついこの前まで知らなかった。

ある日、近所のおばちゃんに、たらの芽が採れる場所を教えてもらい、早速採りに行ってみた。そこは畑と畑の間にある、ちょっとした場所だった。草木が不規則に育ち、中まで分け入ることは出来そうにない。2、3歩だけ踏み入ることのできる、いばらの藪の中に、青い芽が枝からニョキッとおもむろに出ていた。それがたらの芽だった。もっと山の中に芽吹いているのかと勝手に想像していたが、意外なほど身近な場所にあった。

このあたりはまだ、「先客」はいないようで、周辺には芽を摘まれた様子はなく、よく見るとちらほらと青く芽吹いている。早速山の恵みをいただこうと手を伸ばすと、チクッと棘(とげ)が刺さった。なるほど、美味いものには棘があるというわけだ。

屋久島のたらの芽は、暖かいせいか、芽生えるとすぐに葉を広げてしまうと聞いた。つまり、芽というよりは、葉になっているものが多い。料亭などでは芽吹いたばかりの初々しい状態の芽が行儀よく並ぶようだが、自分たちが食べるだけだから、多少育ってしまった葉でも全然構わない。その日の夕飯のおかずになる分だけ、屋久島の自然からありがたく採らせていただいた。

この日の晩、我が家の食卓には、ついさっき採ってきたばかりの、たらの芽の天ぷらが並んだ。料亭の雰囲気とまではいかないが、味は最高だ。天つゆで食べるもよし、軽く塩をふって食べるもよし。若芽の部分はもちろん、葉の部分もサクッとした歯ざわりで、かすかに口に広がる苦味がなんともいえず、美味い。我が子らも、せっかくの「大人の味」を、争うように食べていた。屋久島の自然の恵みを、旬の時期に採れたてをいただく。ささやかではあるが、この上ない贅沢だ。食べ物が美味いと、人は幸せな気分になる。この島に暮らす小さな幸せを、ふわりと感じた夜だった。

菊池 淑廣(きくち・よしひろ)

1969年、東京生まれ。1993年にスポーツウェアメーカーに入社。一貫して広告宣伝の仕事に携わり、自ら撮影、コピーライト、デザイン制作までマルチにこなす。

2005年4月、家族共々屋久島へ移住。それと同時に広告事務所「屋久島メッセンジャー」を設立し、雑誌やウェブサイトなどを通じて屋久島の情報を発信しながら、広告プランニング、撮影、コピーライト、ロケ・コーディネートなど、幅広く活動している。著書に「屋久島で暮らす あるサラリーマンの移住奮闘記」(山と溪谷社)。

ブログ「フォトライター菊池の屋久島移住ライブ日記」も公開中。

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