「木の芽流しだねぇ」
「こんまま春になるがね」
島ではそんな会話が聞かれるようになった。「木の芽流し」とは、2月の下旬頃から3月にかけて降り続く長雨のこと。地元ではこの雨をそう呼ぶ。島を覆う樹々たちは、この雨の恵みを存分に享受して、一斉に色鮮やかな若葉を芽吹く。木の芽をサーッと流す雨とは、何とも風情のある表現だ。東京に住んでいた頃は、ただうっとおしいだけの雨だったが、自然の中に暮らしていると、そんな雨に対する見方も変わってくるから面白い。
屋久島に降る雨の量はハンパではない。この時期の山地での降雨量は、ざっと東京の1年間分以上の雨が降る。山に降りそそいだ多量の雨は、森をさっと潤すと、いくつもの小さな沢をつくりながら次々と本流に集約され、山頂から海岸までわずか十数キロの距離しかない急流を、一気に駆け下りてくる。途中、いくつもの滝を「ドドドドドッ…」という低い音をとどろかせながら越えてゆき、わずかな時間で海まで辿り着く。いつもは穏やかな滝の風景も、この時ばかりは一転して豪快な風景に変わる。

しばらく雨が降り続き、ようやく小休止とばかりに太陽が顔を出した。こんな日こそ、滝を見るには絶好のタイミングだ。ちょうど週末だったこともあり、早速滝めぐりとばかりに、久しぶりに弁当を持って家族で出掛けた。
島の南へとクルマを走らせ、小さくも迫力を増した滝をいくつか見ながら、観光スポットにもなっている「千尋(せんぴろ)の滝」へ。花崗岩の壮大な“V字谷”を流れ落ちる、落差約60mにおよぶ大きな滝だ。クルマを停め、展望台まで歩いていくと、一段と大きな音をとどろかせながら、膨大な量の水が滝壺に叩きつけられていた。




