
海と山、そして里。島のあらゆる風景が、手に取るように楽しめる場所がある。三角錐のひときわ美しい山、「愛子岳(あいこだけ)」のてっぺんだ。愛子岳は島の東側、小瀬田(こせだ)集落の背後に鎮座し、標高1235mを誇る。その頂上には、屋久島屈指の絶景が広がっていると聞いていた。
ところがこの愛子岳、屋久島の中でも最もきつい山のひとつといわれている。それもそのはず。登山口の標高はわずかに180m。海岸からそう遠くはない場所にある。そこから歩くこと約4km。目指す山頂は1235mにおよぶ。そう、たったの4kmで1000m以上も登るのだ。地形図を見るだけで敬遠したくなる。でも、その魅力には代えがたい。できることなら、天候のよい日に「一発」で決めたい。空気の澄む冬こそ、チャンスの訪れる可能性は高い。その日を虎視眈々(こしたんたん)と狙っていた。
そして、その日は訪れた。天候は晴れ。湿度も比較的低めだ。天候と僕のスケジュール、両方の条件がぴったり揃うことは決して多くはない。「これは行くしかないだろ!」。早速カメラ機材をザックに収め、登山口へと向かった。
島の外周を通る県道から小瀬田集落を抜け、わずか5分も走ると登山口に到着する。クルマが1台もないところを見ると、どうやら誰も登っていないようだ。ここは登山口から山頂まで、ずっと世界遺産エリアを歩く贅沢なコース。それでもやはり、それなりにきつい山ゆえに、登る人はまだまだ少数だ。
いつもより入念にカラダをほぐすと、いよいよ出発。いきなり山の斜面を斜めに切り込んでいくところが、このコースの厳しさを物語っているようだ。それでも登りはじめは至って穏やか。キラキラと輝く照葉樹林の中を気持ちよく進む。風が森を吹き抜けると、木々の葉がザワザワとざわめき、その度に木洩れ日がユラユラと揺らめく。時折、「コンッコンッコンッ…」と小気味のいいリズミカルな音が森に響き渡る。アオゲラか何かが木を叩いているようだ。




