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冬でも海遊び

2006年1月16日

屋久島の冬は案外寒い。そうかと思うと、ぽかぽかと暖かい日もあったりする。そんな日は虫たちも勘違いをするのか、昼間はやたらとハエがブンブンと飛び交い、夜になると秋に鳴いていた虫が、再び同じ声で心地よい気分にしてくれる。冬なのに、春のような秋のような、複雑な季節感が漂う。

先週のある日、この島では珍しいくらいの快晴に恵まれた。屋久島では、「快晴」という言葉の使える日が、1年に何日あるのだろう。昨年の4月に移住してきてから、一日中雲のなかった日は、おそらく両手で数えられる程度だ。朝は晴れていても、午後にはたいてい雲が山を覆うのだが、この日は日の出から日の入りまでほとんど雲を見ることがなく、穏やかで暖かい一日だった。

これほど天気のいい日に、家に居ては罰があたる。仕事をしているのも、もったいない。子供たちが幼稚園から帰ってくると、おやつを食べてから、外へ遊びに連れ出した。すでに夕方4時近くだったが、太陽はまだ山よりも上にあり、外はまだ暖かい空気に包まれている。上着を着ていると、むしろ暑いくらいだ。そんな陽気に誘われて、久しぶりに海へ行ってみた。我が家からクルマで3分ほどのところにある、夏の定番の遊び場だ。

クルマから降りて海岸へと向かう途中、昨年の9月に屋久島を直撃した台風14号の爪あとが、無残なままの状態になっていた。改めて台風の驚異的な力に圧倒されながら、すっかり静まり返った冬の海岸をぼちぼち歩く。海と山の境に広がる草原の向こうに、隆起珊瑚礁()の磯場がある。そこには、タイドプールと呼ばれる潮溜まりがいくつも出来ていた。

子供たちはゴツゴツした磯場を、ひょいひょいと器用に歩く。山や森などを歩くうちに、自然とバランス感覚が養われているようだ…と思いきや、ふたりとも足を磯にぶつけ、血を流していた。まぁ、こういう経験を重ねて、さらにバランス感覚が研ぎ澄まされていくのだろう。タイドプールを覗き込むと、カニやらヤドカリやら、そして小さな魚たちが戯れていた。それを見つけた我が子らも、靴下を脱ぎ、ジャブジャブと戯れはじめる。僕も足を浸けてみるが、それほど冷たくはない。息子がどこからか竹の棒を見つけてきて、それでカニでも捕ろうというのか、夢中になって突いていた。息子がもう少し大きくなったら、夕飯のおかずでも捕って来てもらおうか…。

屋久島の海域には黒潮が流れているおかげで、冬でも海水は比較的暖かく、陸地をも暖めてくれる。それに対して、この島には2000m近い山々がそびえる。そんな山から吹いてくる風は冷たい。だからこそこの島の冬は、寒い日もあれば暖かい日もあるのだ。その日の遊びは、その日の天候次第。考えてみれば、僕たち人間だって虫たちと同じだ。冬でも暖かければ、季節はずれの海で遊ぶのだ。

:隆起して死滅した珊瑚礁の残骸。

菊池 淑廣(きくち・よしひろ)

1969年、東京生まれ。1993年にスポーツウェアメーカーに入社。一貫して広告宣伝の仕事に携わり、自ら撮影、コピーライト、デザイン制作までマルチにこなす。

2005年4月、家族共々屋久島へ移住。それと同時に広告事務所「屋久島メッセンジャー」を設立し、雑誌やウェブサイトなどを通じて屋久島の情報を発信しながら、広告プランニング、撮影、コピーライト、ロケ・コーディネートなど、幅広く活動している。著書に「屋久島で暮らす あるサラリーマンの移住奮闘記」(山と溪谷社)。

ブログ「フォトライター菊池の屋久島移住ライブ日記」も公開中。

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