屋久島の冬は案外寒い。そうかと思うと、ぽかぽかと暖かい日もあったりする。そんな日は虫たちも勘違いをするのか、昼間はやたらとハエがブンブンと飛び交い、夜になると秋に鳴いていた虫が、再び同じ声で心地よい気分にしてくれる。冬なのに、春のような秋のような、複雑な季節感が漂う。
先週のある日、この島では珍しいくらいの快晴に恵まれた。屋久島では、「快晴」という言葉の使える日が、1年に何日あるのだろう。昨年の4月に移住してきてから、一日中雲のなかった日は、おそらく両手で数えられる程度だ。朝は晴れていても、午後にはたいてい雲が山を覆うのだが、この日は日の出から日の入りまでほとんど雲を見ることがなく、穏やかで暖かい一日だった。
これほど天気のいい日に、家に居ては罰があたる。仕事をしているのも、もったいない。子供たちが幼稚園から帰ってくると、おやつを食べてから、外へ遊びに連れ出した。すでに夕方4時近くだったが、太陽はまだ山よりも上にあり、外はまだ暖かい空気に包まれている。上着を着ていると、むしろ暑いくらいだ。そんな陽気に誘われて、久しぶりに海へ行ってみた。我が家からクルマで3分ほどのところにある、夏の定番の遊び場だ。
クルマから降りて海岸へと向かう途中、昨年の9月に屋久島を直撃した台風14号の爪あとが、無残なままの状態になっていた。改めて台風の驚異的な力に圧倒されながら、すっかり静まり返った冬の海岸をぼちぼち歩く。海と山の境に広がる草原の向こうに、隆起珊瑚礁(※)の磯場がある。そこには、タイドプールと呼ばれる潮溜まりがいくつも出来ていた。
子供たちはゴツゴツした磯場を、ひょいひょいと器用に歩く。山や森などを歩くうちに、自然とバランス感覚が養われているようだ…と思いきや、ふたりとも足を磯にぶつけ、血を流していた。まぁ、こういう経験を重ねて、さらにバランス感覚が研ぎ澄まされていくのだろう。タイドプールを覗き込むと、カニやらヤドカリやら、そして小さな魚たちが戯れていた。それを見つけた我が子らも、靴下を脱ぎ、ジャブジャブと戯れはじめる。僕も足を浸けてみるが、それほど冷たくはない。息子がどこからか竹の棒を見つけてきて、それでカニでも捕ろうというのか、夢中になって突いていた。息子がもう少し大きくなったら、夕飯のおかずでも捕って来てもらおうか…。
屋久島の海域には黒潮が流れているおかげで、冬でも海水は比較的暖かく、陸地をも暖めてくれる。それに対して、この島には2000m近い山々がそびえる。そんな山から吹いてくる風は冷たい。だからこそこの島の冬は、寒い日もあれば暖かい日もあるのだ。その日の遊びは、その日の天候次第。考えてみれば、僕たち人間だって虫たちと同じだ。冬でも暖かければ、季節はずれの海で遊ぶのだ。

※:隆起して死滅した珊瑚礁の残骸。





