移住してくる前、初めて屋久島を訪れて以来、僕を魅了する風景がある。島のちょうど南に位置する「モッチョム岳」を眺める風景だ。海岸からわずかな距離のところにそびえ立つ、標高1,000m近い岩峰だ。

その荒々しい景観に冒険心をかき立てられるのか、それとも大自然の驚異に対する、畏敬の念によるものなのか…。魅了される根拠はいくつかあるはずだが、いわば理屈抜きの一目惚れのようなものだ。
「モッチョム」という聞き慣れない名前は、昔から陰陽山(※)として崇められていることにあり、「陰」を意味する、種子島地方の方言「モッチョー」に由来しているといわれる。そのふもとにある原(はるお)集落からは女性、尾之間(おのあいだ)集落からは男性のシンボルに見えるという。僕にはそう見えるかどうかよりも、最初にそのように見た人の感性に興味がある…。
そのモッチョム岳を眼前に望む、お気に入りの場所がある。あるリゾートホテルの庭だ。そこから眺めるモッチョム岳は、島のどこで見るよりも美しいと僕は思っている。山の稜線を描く力強いラインといい、裾野の流れるような優しい曲線といい、ほぼ完璧な景観デザインを誇っている。ちなみにこの位置から見る姿は「陽」、つまり男性ということになる。
この風景を見たくて、よくこのホテルの庭にお邪魔させてもらう。一度はこの素晴らしい風景を眺めながら、極上の朝を迎えたいと思うのだが、残念ながら泊まったことはない。宿泊もせずに庭を拝借するのは申し訳なく思うのだが、たまにレストランを利用することでお許しをいただいているものと、勝手に解釈している。
※:「陰陽」とは中国古来の思想で「世界を陰と陽に分ける」相反する性質を持ちながらもお互いがあってこそ存在しえるという考え。山岳宗教にも影響。




