いよいよ島のふもと近くにも、紅葉が下りてきた。どうやら焼酎のお湯割りが恋しくなる時期と、ほぼ一致するようだ。明確な関連性はないが、それだけ里も冷え込んできたということなのだろう。

紅葉が山の奥から解き放たれれば、クルマで手軽に紅葉を見に行くことができるようになる。思えば、東京に住んでいた頃は、紅葉を見に行くには必ずや渋滞がつきものだった。箱根にしても日光にしても、紅葉シーズンのクルマの多さは尋常ではない。
僕もずいぶん前にとんでもない思いをした。日光へ紅葉狩りに訪れた際、時間をずらしたつもりが事故か何かの影響で、渋滞の中にすっぽりとはまってしまったのだ。時速数十メートルという、間違いなくカメにも劣るスピードにはさすがに滅入る。紅葉を眺めるよりもクルマを置き去りにできるスペースはないかと、キョロキョロと見回していたことを覚えている。
確かに名所といわれる場所の紅葉は鮮やかで美しいのだが、そんな状況においては、その美しさを享受する心の余裕などすでにない。そのときの感動は、もはや半減していたに違いなかった。
屋久島にも「いろは坂」のようなワインディング・ロード(※)がある。もちろん渋滞もなければ「ドリフト族」がいるはずもなく、快適に安心して走ることができる。屋久島の紅葉をまだ一度も見ていない家族をクルマに乗せて、山の色合いを確かめに行った。
里から見る山々は、ほぼ緑一色だが、我が家からクルマで走ることおよそ10分。手前の山をぐるりと回り込むと、緑ばかりだった山の風景に、いよいよ秋の色がちらほらと彩りを加える。まだ標高の低いそのあたりは色づき始めたばかりのようで、一本の木に夏の色と秋の色が、グラデーションをなして混在している。そこからカーブをひとつずつ抜ける度に、だんだんと秋の色が濃くなっていく。
さらにカーブを七つ八つ抜けると、常緑の木々がこんもりと覆う山肌に、赤や黄に色づいた木々が点々と、色鮮やかに目立ち始める。森の中で見る樹、一本一本の紅葉も美しいが、遠目に見る山の紅葉もまた美しい。濃い緑を背景にポツポツと映える赤や黄の風景は、陽の光を浴びて、まるでパッと開いた花火をイメージさせる。南の島の紅葉は、鮮やかさとともに、どことなくはかなさも漂わせているようだ…。

さながらいろは坂のように絢爛豪華(けんらんごうか)とまではいかなくとも、心に余裕がある分、緑と赤と黄がキラキラと競演する屋久島らしい紅葉の風景を、しっかりと享受できる。何より尋常でない渋滞にうんざりすることもなく、ちょいと見に行けて、さっと帰って来られるのがいい。小1時間もあれば充分だ。
この分だと、もうしばらくは南国の紅葉が楽しめそうだ。それでもすでに12月。11月の下旬には、
島のてっぺんでは初冠雪(はつかんせつ)を記録した。島の人は皆、屋久島の秋は短く、すぐに冬がやってくるという。中には「今年の秋は短かったねぇ」と、もうすっかり冬だという人もいる。
東京から来たばかりの僕たちにしてみると、この島の秋と冬の境は曖昧だ。それでもいずれ、この島にも寒い冬はしっかりと訪れる。南の島でも、こたつに入りながらの、鍋とお湯割りが絶妙に旨い季節がやってくる。“にっぽん人”としての楽しみは、この島では尽きることがない。
※曲がりくねった道のこと。一般的には峠道や山道を指すことが多い。





