屋久島に暮らす魅力の一つは、南の島でありながら四季がはっきりと存在することだ。さらに南にある常夏の島も、それはそれで魅力はあるのだが、“にっぽん人指数”の高い僕は、やっぱり春夏秋冬を暮らしの中で感じていたい。季節の移ろいがあるからこそ、島の焼酎も暑い季節はロックが美味いし、寒くなればお湯割りが恋しくなる。そこに季節の料理とくれば、それだけで幸せな気分になれるものだ。いやはや、“にっぽん人”に生まれて本当に良かった…。
今年の屋久島は暖かく、楽しみに待っていた紅葉は少々遅れ気味。12月を前にしながらも、最高気温が20度を上回る日がまだある。ちょうどこの一文を書いている今も、窓全開でTシャツ1枚と言う格好だ。それでも山の上はさすがに寒く、そろそろ色づき始めてもいい頃だ。

とうとう待ちきれずに、いつもとは違った森の風景を見たくて、山の上へと行ってみた。意気揚々と森の中へ入るが、ここでもまだ秋の気配は感じられない。思った以上に遅いのかもしれない…。それでも南の島の秋を感じたくて、もっと奥へと、誘われるように入っていく。しばらく歩くものの、青々とした苔や常緑樹が多く、一向に秋の色は見られない。いつもと変わらない森の風景だ。
いよいよ標高1000mを超えると、ようやく緑ばかりだった森にも、秋の色をちらほらと目にするようになる。かつて紅葉の名所、日光で見たような美しい発色の紅葉とまではいかず、少し淡い色合いだ。それでも、うっそうとした森の中では、ぽっと明るく映えて美しい。緑と黄と赤のコントラストが生み出す森の色は、まるで時間の流れがゆがんでしまったかのように、どっちに向かって季節が移ろいでいるのか、今はどの季節にいるのか…一瞬僕の頭を混乱させる。春や夏の森歩きでは、感じることのなかった風景だ。
一気に標高を上げる急な登りに息を切らし、たまらなく立ち止まって足元ばかりを見ていた目線を上げると、大きなヒメシャラが視界に飛び込んできた。赤い木肌のヒメシャラ(※1)は、紅葉の季節でなくとも、森の中ではひと際目を引く。ふと仰ぎ見ると、そこに小さな秋を見つけた。枝の分かれ目の窪みで、屋久島の秋を彩る代表ともいえるマルバヤマシグレ(※2)の葉が、淡いピンクに染まっていた。どことなく控えめで、やわらかな紅葉だ。登山口から歩くこと約4時間。やっと出合えた南国の秋だった。
山の上で出合った南の島の紅葉は、これから徐々に標高を下げながら、麓までゆっくりと下りてくる。それに合わせて少しずつ見るポイントを変えていけば、比較的長い間、何度でも紅葉を楽しめる。屋久島ならではの楽しみ方だ。麓の近くまで色づくのは、もう時間の問題。そうなれば、山の奥に入らなくとも、気の向いたときにぶらりと紅葉を見に行くことができる。それまでぼちぼちと、お湯割りを楽しみながら待つことにしよう。

※1:低山によく見られる、赤いまだらの独特の幹を持つツバキ科の植物。5〜6月に小さな白い花を咲かせる。
※2:スイカズラ科の落葉広葉樹。赤白く色が抜けていくように紅葉する、屋久島の固有変種。





