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憧れのトロッコ・ライド

2005年10月31日

10月も終わりに近づき、南の島の空気も一段と涼しくなったある朝、ひょんなことからトロッコに乗せてもらう機会に恵まれた。縄文杉へと向かう、延々と続く森林軌道を歩く度に、いつも乗りたいと思っていた、あのトロッコに乗れるのだ。今回はもちろん縄文杉へ行くためではなく、ただトロッコに乗るだけなのだが、まるでテーマパークのアトラクションに乗るときのようにワクワクした。

伐採した屋久杉をトロッコで運搬していたその昔は、山の奥深い所から海岸まで軌道が延びていたのだが、現在の発着所は里の中。標高にして100mに満たない所にある。この軌道は現在でも森林管理等のために使用されている。

この日、僕が乗せてもらうトロッコは、昭和30年代から使用されているもの。車輪の上に木箱のような荷台がのっているだけのシンプルなデザインだ。この至ってシンプルな乗り物で、深い谷を見下ろしながら、さびついた一本のレールの上を転がっていくのだ。どれほどスリリングで爽快か、期待に胸が膨らむ。

いよいよ出発。トロッコそのものには動力がないため、登りはガソリン駆動のモーターカーにけん引してもらう。つまり2両編成だ。出発するとすぐに、古びたトロッコは山深い風景に馴染んでいった。標高が低いとはいえ、トロッコが切る山間の空気は一層ひんやりと感じられる。深い谷の上を、カタコトと音をたて、ゆっくりとしたスピードで標高を上げていく。さながらジェットコースターの出だしのようだ。山に穴を開けただけのような、雰囲気満点の真っ暗なトンネルをいくつもくぐり、尻の穴がつぼむような鉄橋を越え、標高500m近い所まで登ってきた。

けん引されるのは、もはやここまで。連結を切り離し、僕たちの乗るトロッコは単体となり、来た道を重力に任せて下っていく。一本のロープだけが頼りだ。これを引くとブレーキが効く。操作はそれだけ。文字通り「頼みの綱」、あるいは「命綱」だ。その仕組みは原始的なだけに、ベーパーロック現象(ブレーキ液の過熱に伴うトラブル)の心配などは一切ない。しかし、いかんせん年式があまりに古い。「本当に大丈夫か?」という思いが、どうしてもぬぐい切れなかった。

下り始めると、カタコトというトロッコの放つシンプルな音だけが、静かで深い山間に響き渡る。ブレーキも問題なく効いている様子だ。徐々にトロッコに対する信頼も生まれ、周りの景色を楽しむ余裕も出てくる。標高があまり高くないのと、おそらく人手が入っていないからだろう、至る所に里では見られないような巨大なヘゴ(木性シダ)が群生している。まるで恐竜でも出て来そうな雰囲気だが、その代役にヤクシカが姿を現した。立派なツノをもったオスのシカだ。もちろんディズニーランドで見るような本物そっくりのつくり物ではない。

そしてクライマックスは、いつ崩れてもおかしくないような鉄橋。トロッコも不安なら鉄橋も不安だ。恐る恐る下をのぞき込んでみると、枕木の間からは、はるか下に沢が流れているのが小さく見える。このスリル感は紛れもなく本物だ。「テーマパークのアトラクションだから大丈夫」などという安心感はみじんもない。終始スピードは控えめだったものの、「ビッグサンダーマウンテン」など比較にならないほどの興奮度だった。これほどにスリルがあって、つくり物ではない壮大な山の景色や動物が楽しめる「アトラクション」は、もちろん初めてだった。

こうして往復1時間半におよぶ「アトラクション」は、あっという間に終わってしまった。さらに、ずっと山の奥まで続くこの森林軌道。いつかはその山の奥の奥まで行ってみたいものだ。人間の好奇心と冒険心は、尽きることがない。

菊池 淑廣(きくち・よしひろ)

1969年、東京生まれ。1993年にスポーツウェアメーカーに入社。一貫して広告宣伝の仕事に携わり、自ら撮影、コピーライト、デザイン制作までマルチにこなす。

2005年4月、家族共々屋久島へ移住。それと同時に広告事務所「屋久島メッセンジャー」を設立し、雑誌やウェブサイトなどを通じて屋久島の情報を発信しながら、広告プランニング、撮影、コピーライト、ロケ・コーディネートなど、幅広く活動している。著書に「屋久島で暮らす あるサラリーマンの移住奮闘記」(山と溪谷社)。

ブログ「フォトライター菊池の屋久島移住ライブ日記」も公開中。

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