9月18日の日曜日。この日は旧暦の8月15日にあたる。いわゆる中秋の名月、十五夜だ。屋久島では今年、雲ひとつない美しい満月の夜となった。
島の各集落では、毎年この日に「十五夜綱引き」が行われる。豊漁豊作や家内安全などを祈願する、島の伝統行事だ。以前、テレビドラマの中でこの行事を目にしたことがあったが、今回僕たちは、島民として生で体験することになる。この日は夜更けまで島中が盛り上がるという。そんな島人を熱くさせる綱引きを、楽しみにしていた。
この日は朝から、集落の人たちが山から刈ってきた「かや」で綱を綯っていた。両手でやっと握れるほどの太さで、長さは30メートルもあろうか。運動会で使うような綱とはだいぶ装いが違う。島の男たちの豪快さが、そのまま綱になったような「見てくれ」だ。
日が暮れる頃、公民館の前に豪快な綱を横たえ、男たちは綱に酒をふりかけ、十五夜の歌を謡いながら踊りはじめる。陽が沈み、夜の帳がおりると、威勢のいい掛け声とともに綱を肩に担ぐ。そして男たちは声を上げながら、右へ左へと勢いをつけ、蛇行しながら道幅の狭い商店街を練り歩く。綱はまるで、昇天する竜のように、うねりながら突き進む。威勢のいい男たちの声に誘われて、街の人たちが集まってきては、綱に触れていく。この綱に触れると、無病息災のご利益があるそうだ。
昔は道の狭いこの商店街を、もっと長い綱で、もっと威勢をつけて、左右に立ち並ぶ民家の窓ガラスを叩き割りながら突き進んだそうだ。風情のある旅館が背景に入るところに狙いを定め、僕は道路わきでカメラを構えていた。一行がやって来るとファインダー越しにチャンスを狙う。うねりながらだんだんと綱が近づいてくる。なかなかの迫力だ。いい感じだ。「よし、今だ!」とシャッターを切ろうとしたその瞬間、「うりゃぁー!」という掛け声とともに、突き飛ばされてしまった。レンズを割られることはなかったが、台風に続く、島の洗礼だった。
そして神社まで辿り着くと、そこでまた男たちは歌を謡い、それが終わると街の真ん中まで引き返して、いよいよ綱引きのはじまりだ。ここで再び焼酎を綱にふりかけ、清める。そして満月が夜空に高々と昇った頃、再び歌がはじまり、威勢のいい掛け声とともに、一戦目の火蓋が切って落とされた。
まずは男たちだけの戦いだ。「せいっ!」という気合の入った掛け声とともに、太い綱はピンと張り、しばし均衡が保たれる。ジリジリと動きはじめた次の瞬間、勝負がついた。初っ端から、かなりの熱狂ぶりだ。小さな商店街には人があふれ、熱気に包まれている。ファインダーを覗いている僕も、次第に引き込まれていく。写真だけでは物足りなくなり、気がつくと自分が「椎間板ヘルニア」であることも忘れ、声を上げて綱を引いていた…。

そして綱引きは、女性と子供たちだけの戦いや、そのうちに入り乱れて誰もが参加する戦いなど、次々と回数を重ねていく。なんと、綱が切れるまで続くという。「あんな太い綱、一体いつ切れるんだ…」。さすがに途中で切れ目を入れるのだそうだ。そうでなければ、一晩中続くことになる。こうしてある一戦を交えているところで、太い綱はブチッと切れ、終了となった。
と、ここで終わるはずはなかった。今度は切れた綱を神社の境内に運び、それを土俵にして子供たちの相撲大会が執り行われた。なぜ相撲なのかは、よく分からない。とにかく「伝統」なのだ。これには、我が娘と息子も参加し、ふたりとも勝利。親としては、積極的に島の行事を楽しんでいる子供の姿を嬉しく思った。親子共々気を良くして帰宅し、祝杯をあげた。 こうして、移住して初めての島の十五夜は、更けていくのだった。






