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山と海を望む書斎

2005年7月19日

以前にも書いたかもしれないが、僕は「非日常」にひたるのが好きだ。昔からアウトドア・スポーツが好きで、キャンプなどへもよく行く。そのせいか、通常は家の中ですることを、あえて外ですることに快感を覚える習性がある。露天風呂が好きなのも、きっとそれに由来する。外メシ、外ビール、外しごと…。東京でも狭いベランダで、わずかな快感を求めてよくやったものだ。

屋久島に来てからもその習性は変わらず、天気のよい休日には、ベランダでビールを飲み、さらには夕飯をいただく。相変わらずベランダは狭いが、周囲に建物がないせいか、圧迫感がなく、さほど狭さを感じない。何よりもここからの眺めは、東京のそれとは全く比較にならない。右手には世界遺産の山並みを望み、左手には種子島の浮かぶ太平洋を望む。屋久島の夏は、日中はさすがに暑いけれども、夕暮れどきには涼やかな山風が吹きおろし、案外心地よい。

仕事でも原稿などに行き詰ると、気分転換とばかりに、アウトドア用のフォールディング・テーブルを引っ張り出し、狭いベランダに即席の書斎をつくる。東京から引っ越してくる際、できるだけ荷物を減らすためにネットオークションであらゆるものをさばいたが、このフォールディング・テーブルは手放さなかった。屋久島での活用方法を想定していたからだ。僕の仕事道具はカメラとノートパソコン。それにこのフォールディング・テーブルとイスさえあれば、どこでも仕事場にすることができる。

わずか数分でセッティングを終え、いざパソコンに向かうと、ここで悪い習性が出る。このシチュエーションでは、どうしてもビールが飲みたくなってしまうのだ。こうして気分転換がさらにエスカレートする。「アイデアがまとまらない時は、一度寝かせたほうがいいんだよな。後にするか…」。自分を正当化する理由はあらかじめ用意してある。

ところが不思議なもので、一杯程度のビールを飲みながらパソコンに向かうと、案外スラスラ書けることがある。サラリーマン時代には仕事中にビールを飲むなどあり得なかったから、そんなことには気づくはずもなかった。新たな発見だった。最近はこれも、自分の行動を正当化する理由のひとつに加えた。

こうして僕は、仕事場を使い分けている。この島に来てから、欲しいものがもうひとつ増えた。もっと上質な気分転換ができる、いや、仕事ができる、広々とした眺めのいいテラスだ。そうしたら、もっと長時間保つパソコン用のバッテリーも買わないと…。人間の欲は尽きることがない。

菊池 淑廣(きくち・よしひろ)

1969年、東京生まれ。1993年にスポーツウェアメーカーに入社。一貫して広告宣伝の仕事に携わり、自ら撮影、コピーライト、デザイン制作までマルチにこなす。

2005年4月、家族共々屋久島へ移住。それと同時に広告事務所「屋久島メッセンジャー」を設立し、雑誌やウェブサイトなどを通じて屋久島の情報を発信しながら、広告プランニング、撮影、コピーライト、ロケ・コーディネートなど、幅広く活動している。著書に「屋久島で暮らす あるサラリーマンの移住奮闘記」(山と溪谷社)。

ブログ「フォトライター菊池の屋久島移住ライブ日記」も公開中。

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