11月に入って、南の島にもだいぶ秋らしい、ひんやりした空気を感じるようになった。とはいうものの、たかだか周囲100キロちょっとの島ながら、場所によって気温がだいぶ違う。これから冬にかけては特に、島の北と南とでは、上着一枚程度の差がある。南からの暖かい黒潮と、北西からの冷たい季節風による影響だ。
僕の住む船行(ふなゆき)集落は、島のちょうど東に位置するのだが、地形的な影響からか、他の地域よりも涼しい。屋久島で最も寒い場所のひとつともいわれ、会う人会う人に、開口一番「船行は寒いでしょう?」といわれるほどだ。確かに最近は日中でも、Tシャツだけでは肌寒く、長袖を一枚羽織るようになった。ところが南の方へ出向くと、Tシャツ一枚でも汗ばむほどだったりする。同じ島でもそれほどに違うのだ。
ある日、島の南方面へ出掛ける用事があったので、子供たちも一緒に連れて、南西に位置する栗生(くりお)の海へ行ってみることにした。さすがに泳ぐつもりではない。そこはタイドプールといって、干潮時にたくさんの潮溜まりができるスポット。いわば天然の水族館で、泳がなくとも、海の生物ウォッチングが楽しめるというわけだ。
「久しぶりに海へ行くか? この前は山へ行ったから…」
「うんっ! どこの海?」
「栗生。お父さん、そっちの方に用事があるからさ。一緒に行くか?」
「行くーっ!」
「じゃあ、もう少ししたら出掛けるから、用意して」

そういうと我が子らは、水着にマスクにスノーケル、さらにはライフジャケットまで用意している。完全に泳ぐつもりだ。
「さすがに泳ぐには、涼しいと思うよ」
「だって、まだ半袖じゃん」
娘はどちらかというと暑がりで、冷たい水でも平気でザブザブ入っていく。
「でも海に入ったら寒いよ。タイドプールで魚獲りしようよ」
「じゃあ、網とバケツも持っていく!」
息子は今年の夏頃から、川でも海でも魚獲りに夢中だ。
結局すべての海遊び道具を、とりあえずクルマに積み込んで出発した。クルマを南へ15分も走らせると、窓から吹き込む風が変わった。日射しも心なしか強く感じる。まるで季節が逆戻りしたような錯覚すら覚える。途中で用事を済ませ、栗生の海に到着すると、さすがに人も少ないだろうと思いきや、案外地元の人が多く繰り出していた。そこにはまだ、空気感といい雰囲気といい、どことなく夏の名残を感じさせた。
すでにお昼を回っていたので、まずは腹ごしらえ。そして濡れてもいいように水着に着替えたら、珊瑚のかけらが敷き詰められた波打ち際へと駆け寄る。




