(文=中村 孝則:コラムニスト、撮影=堀 裕二)

お店は、銀座のクラシックなビルの一室にある
銀座に世界一のテーラーがある。
少なくとも、僕はそう確信している。そのテーラ−の名前は『羊屋』という。「洋服屋には詳しいけれど、その名前は知らないな」と言う読者もいるだろう。いや、むしろ「知っているよ」と返されたら、驚いてしまうかもしれない。というのも、『羊屋』が銀座で正式にオープンして一年あまりだからだ。お店も小さい。昭和通り沿いのクラシックなマンションの一室にひっそりと佇んでいる。流行ものにめざといメンズ雑誌編集者であっても、この店の真価はおろか、その存在自体を知らないだろうから、誌面に採り上げることもまずない。少なくとも今のところは──。
オーナーの西口太志さんがこのテーラーを立ち上げた経緯も一風変わっている。もともと彼は洋服屋でもアパレルでもない。「満足のいくテーラーがなかったから自分で作った」のである。かといって、“趣味が高じて”といった旦那的なパトロネーゼとも一線を画している。彼がここに行き着くまでには、なみなみならぬスーツとの格闘があったのだ。

生地は英国やイタリアの最上級のものから選ぶことができる




