
映画雑誌・新聞を中心に、作品紹介や批評を多数手がけている映画評論家・渡辺祥子氏。年間200本もの作品を見るというプロ中のプロだが、その原点は「映画が好きでたまらない」という愛情だ。第79回米アカデミー賞授賞式の見どころや、受賞作の予想について伺った。
ハリウッド大作がインディーズ映画に押され気味
今年度作品賞候補の傾向について伺ったところ、渡辺氏は「その年その年によって違うので、なんとも比べようがないんですが」と前置きをした上で、ハリウッドの大作映画の弱体化、インディーズ映画の台頭を指摘した。
「優れた脚本に出会えないことによる企画の貧困、それと、大ヒットを狙うあまりの過度なリサーチの結果、ハリウッド映画はよく言えばマイルド、悪く言えばトガったところのない凡庸な作品になってしまっている。
一方で、これは何年も前からの現象ですが、インディーズ映画の勢いがどんどん増している。話題になった『サンキュー・スモーキング』を始め、良質の作品が数多くある中で、『リトル・ミス・サンシャイン』が作品賞候補に選ばれた。予算は少なくても、知恵とスタッフの心意気で、情熱あふれる映画です。
つまり、作品賞候補は、ハリウッドの弱体化、インディーズの頑張り、という傾向が見える5本が選ばれているのです」
さらに、渡辺氏は、作品賞候補にはもうひとつの特徴が現れている、と言う。スペイン語圏出身の監督や脚本家による映画だ。
「その代表が『バベル』です。『21グラム』の監督でもあるアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥはメキシコ出身ですし、外国語映画部門など5部門にノミネートされている『パンズ・ラビリンス』も、メキシコ映画です。
スペイン語圏の国には、カトリックという宗教的バックボーンと、長い戦乱を経た国の歴史とが複雑に絡みあっている。そうした複雑な背景は、ヒスパニック系の人が作る映画のドラマに奥行きを与えています。どこの国の企画でもいいから取り込んで、とにかくいい映画を作ろうとする貪欲さが、アメリカ映画界の懐の深さですね」

今年のオスカーは誰の手に・・・
作品賞&監督賞はディパーテッドか!?
作品賞・監督賞の受賞については、渡辺氏は『ディパーテッド』と『硫黄島からの手紙』と予想する。アメリカでは、『バベル』と『ディパーテッド』が有力と言われている。
「マーティン・スコセッシ監督は今まで、『レイジング・ブル』(1980年)以来5回も監督賞にノミネートされながら、受賞を逃しています。6回目の今年、ついに受賞するのではないでしょうか。『硫黄島からの手紙』のクリント・イーストウッド監督は、全米監督協会賞でなぜかノミネートされませんでした(注:全米監督協会賞はマーティン・スコセッシが受賞)。そのあたりの兼ね合いで、監督賞はスコセッシ、作品賞は『硫黄島からの手紙』かもしれません。
作品賞と監督賞は揃うのが普通ですが、第71回アカデミー賞では、作品賞が『恋におちたシェイクスピア』(ジョン・マッデン監督作品)、監督賞はスティーヴン・スピルバーグ(『プライベート・ライアン』)でした。監督賞と作品賞がそれぞれ別の作品になることは今までも何度かあって、今年はそうなるかもしれませんね」
有力候補2作品について-『ディパーテッド』『硫黄島からの手紙』
「スコセッシの『ディパーテッド』は、日本では、オリジナルではなく香港映画『インファナル・アフェア』のリメイク作品じゃないかという見方がありますが、『インファナル・アフェア』の知名度はアメリカではそれほど高くありません。そのため、アメリカ人は、魅力的な“警察VSギャング”のドラマとして見るでしょうし、アカデミー賞でも、スコセッシがわかりやすい映画を作ったという点で高く評価するかな、と思います。
スコセッシは昔から、ストーリーよりも、場面の衝撃・出来事の衝撃のつなぎ合わせで魅せてきた監督です。そのため、彼の映画は優れているとは言われても感情移入はむずかしく、ヒット作は生まれづらかった。その点、今作にはわかりやすいストーリーがきちんとある。結果、スコセッシ映画として一番のヒット作になっています。
ただ、あまりにもヒットすると、ここがアカデミー賞の意地悪なところですが、受賞できなかったり、ノミネートされなかったりということもあります(笑)
『硫黄島からの手紙』は、イラク問題に揺れるアメリカの人たちの共感を呼ぶ可能性があります。“映画は社会を映す鏡”とはよく言ったもので、まさにその通り。アカデミー賞は、アメリカ社会の現状を常に反映しています。“戦争で被害を受けるのは一般の人たち”というメッセージを持つ『硫黄島からの手紙』は、何らかの形でアカデミー賞に影響を与えるのではないでしょうか」

作品賞は『硫黄島からの手紙』が本命

監督賞は『ディパーテッド』のマーティン・スコセッシ監督が有力




