フランシス・フォード・コッポラにチェン・カイコーといった、世界に名だたる監督が映画化を熱望したといわれるのが、三島由紀夫の傑作「豊饒の海」シリーズだ。三島は1925年生まれ。70年に衝撃的な割腹自殺をはたしたことは、あまりにも有名だ。その三島の生誕80年、没後35年の節目の年である今年、数ある三島文学の中でも最高傑作との呼び声が高い同シリーズ1作目の「春の雪」が、満を持して映画化された。メガホンをとったのは、『GO』『世界の中心で、愛をさけぶ』の成功で、作品のクオリティーとヒットメイクを両立させる手腕を発揮し、注目を集める行定勲監督。愛し合いながらも引き裂かれてゆく、若い2人の悲恋物語を真正面からとらえてみせる。
時は大正初期。互いに貴族の家の生まれである松枝清顕(まつがえ・きよあき)と綾倉聡子(あやくら・さとこ)は、幼ない頃からの顔見知りとして、秘かに心を通わせ合っていた。だが、ふとしたことから清顕は聡子に冷たい態度を取り始める。そんな折り、聡子と宮家の縁談が進み、清顕の気持ちを確かめられぬまま、聡子は縁談を受け入れることに。それは後戻りできぬことを意味したが、そこではじめて清顕は、自分の本当の気持ちに目覚める──。
妻夫木聡に竹内結子と、当代切っての若手人気俳優2人が、主人公の松枝清顕と綾倉聡子を演じているのも話題のひとつ。とりわけ目を見張るのが、妻夫木の名優ぶりだ。どちらかというとこれまで、ヤンチャだったり、真っ直ぐだったりと、プラスのイメージの強い役柄を多く演じてきた彼が、本作では一転、自分勝手で、聡子の心をもてあそぶかのような一面を披露。俳優としての成長ぶりを伺わせる。
2人は、互いにすれ違いを繰り返しながら、ようやく真実の愛に気づく。だが、時すでに遅く、その愛は哀しい運命を迎える。まるで“春の雪”のように積もることなく儚く消える恋。それでも、叶わぬ愛を貫こうとする純愛ぶりは、見る者の胸を打つ。




