老舗のおでん屋
夕暮れどき、店へ出る前に腹ごしらえをする。付き合い酒などで営業中に外出することもあるが、基本的にはベタ付きなので、何かしら食べておかないとバテてしまう。CDショップに立ち寄りつい長居してしまったときは、立ち喰いそばやコンビニの弁当で済ますことになるが(よくある)、とくに用事のない日は、一杯飲りながらのんびりと夕食をとることにしている。
先日は新橋のおでん屋へ寄った。夕方の4時から開けている老舗の店内には、すでに5~6名の先客がカウンターに腰かけて、いい塩梅に始めていた。好物の熱燗を1本注文して、大根とはんぺんで一杯。店主が切り盛りをする様子や、うまそうにおちょこをすする客をながめていると、「ああ、これが冬のスタンダードだな。日本には四季折々の風情があっていいな」などと、まるで好々爺のような気分に浸っていく。
とは言うものの、やはり私の根っこは商売人なんだろう。しばらくすると、同じ「酒を売る店」としての経営状態が気になってくる。「いまの時期はいいとして、夏場はどうしてるんだろう」とか「暑い時期にはサイドメニューが必要だ。冷やしトマトに…」などと思いは巡り、つかの間の好々爺はふだんの経営者へと戻ってしまう。
勘定を済ませ、陽が落ちはじめた通りを銀座へ向かって歩きながら、温かいカクテルのレシピをあれこれと考えた。バーでは寒い冬でもジントニックやマティーニの注文がある。おでん屋のような分かりやすい季節感は漂いにくい。でも、とりわけ冷えこんだ晩など、ホットウイスキーやホットラムを一杯目にすすめることがある。そして、ウチへ来るなりホット・ウイスキーとともにチェット・ベイカーをリクエストした常連客の顔が浮かんだ。




