(インタビュー・文=山村 基毅 写真=小川 拓洋)
<前編はこちら>
2004年に第1回本屋大賞を受賞した小説『博士の愛した数式』は、扱う世界のユニークさ、登場人物たちの際立った個性などにより、実に味わい深い作品に仕上がっていた。
数学を主題に据えて、あれほど飽きさせない物語が紡げることに驚いてしまった。ちなみに、今年初めに公開された、この作品を原作とする映画も、小川の狙いを見事に映像へと焼きつけ、独特の世界を描出してくれた。
数学であるとか標本であるとか、著者の関心はどこか理数系に向いているように感じるのだが……。
「学校の勉強としての理数系は好きではないんですけどねえ(笑)。ただ、よくある小説風の、男女の恋愛などより試験管の中を漂っているキノや、オイラーの公式なんかのほうが、神秘的でロマンティックなものを感じます。生身の人間から距離をおいて見られるもののほうが、私にとっては物語的なんです」
そうか、だから、小川洋子の作品はどこか乾いて、読み手だけでなく登場人物さえも突き放す感じがあるのか。
しかし、その乾きはあくまで表面だけであり、薄皮をめくると、その下にどろどろとした情念が渦巻いているかのようだが、そこは「思わせる」だけで、敢えて書くことはない。
「小説を書くときに、物事に『輪郭がある』ということでとても安心できるんです。自分が生きている広大な世界の中に、丸とか四角とか、壁を積み上げて世界を作っていく感触。そうやって輪郭を作ることで、芒洋としていた世界がくっきりと見えてくる。それまで気づかずに通り過ぎていたものも、覗いてみると『広大な宇宙があったのか』という感じで私の小説を読んでいただくといいなあ、と」
その輪郭を点描する線が数学の公式であったり、試験管のガラスであったりするのだろう。




