その日、隣の家のヤッちゃんは、少しソワソワしていた。ヤッちゃんは、地元・矢又の消防団の団長さんである。正確に言うと、那珂川町消防団第2分団第2部の部長さんである。地元の消防団員20数名を取りまとめている。
21年ぶりの配備
なぜソワソワしていたかと言うと、矢又の消防団に新しいポンプ車が来ることになって、その引渡し式の日だったからだ。それだけなら大したことではなかったのに、折り悪く組内の葬儀と重なった。
組内に不幸があると、組内の家では夫婦2人して通夜と告別式の手伝いをすることが慣わしとなっている。火事と葬儀は、全てに優先される。サラリーマンもどんなに忙しくても会社を休んで手伝うし、夫婦2人がそらわない場合は遠方の子供や親戚に来てもらう。
このあたりでも最近は自宅葬が減り、葬祭場を使うことが多くなって手伝いは楽になったが、以前は大変だった。
新しい消防ポンプ車の引き渡し式と、組内の告別式が同じ日になってしまった。団長として引き渡し式に欠席するわけにもいかないし、告別式の手伝いもおろそかにはできない。
それでもヤッちゃんはまだいい。消防団の団長だから、「ちょっと、引き渡し式に行かないと」と言えば、中抜けも認められやすい。引渡しの写真を撮るつもりだった私は、かなり気兼ねしながら「ちょっと、取材に」と切り出して、逃げるように葬祭場を後にした。

新しいポンプ車。かなり本格的な感じだ。町の入札で1040万円だった




