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90歳の床屋さん(後編)

2006年9月21日

ゼッケンナンバー37。これが、箱石シヅイさんが戦後、宇都宮で行われた理容大会で「栃木県一位」の栄冠に輝いた時の背番号である。今年90歳になろうというのに、シヅイさんはこのゼッケンナンバーを忘れていなかった。

昭和レトロの雰囲気が漂う理容ハコイシの店内

シズイさんの散髪バサミ

シヅイさんは、現在でも、馬頭の谷川(やかわ)というところで、ハコイシ理容という看板を掲げる、現役の床屋さんである。このことは、前回紹介した。

シヅイさんは、戦前の東京で理容師の見習い修行を始めた。「昭和10年から、ずっと床屋やってっから」と言うから、18、19歳あたりから床屋さん一筋である。

90歳には見えないシヅイさん

栃木県一位に賞されるくらいだから、相当厳しい修行時代を送ったのだろう。いくつかの理容の名店を巡ったようだが、「私は修行の身だから」と謙遜しつつも、そこは実力の世界だから、腕前を買われて先輩理容師たちよりも給金が高かったこともあった。

シヅイさんが使っている散髪ハサミは、ちょっと変わっている。戦前から研ぎ直しては使っているものだが、小指を引っ掛けるフックがない。散髪ハサミは、指を入れる穴のうち、上側にくる穴の横には小指をかけるフックが付いている。これで、ハサミを安定させるのだ。

ハサミは支点で交叉しているので、フックで安定させる側の刃は下側になる。下の穴に入れた親指を動かして、上側の刃で髪の毛を切るのだ。下側の刃を全く動かさずに、上側の刃だけをシャキシャキと動かして、髪の毛を切っていくのが理想である。

その下側の刃を安定させるために、小指フックはなくてはならない。一緒にハコイシ理容を訪れた50代の理容師さんも「こんな形の散髪ハサミは初めて見た。とても私なんかじゃ使えない」と舌を巻いていた。

「東京の有名な床屋だった『庄司』でしか、使ってなかったハサミよ。私は今でも、これが一番いいんだわ」

シヅイさんは事も無げに話していた。試しに、フックのないハサミを持たせてもらったが、上と下の両方の刃が動いてしまい、どうにもならなかった。シヅイさんは横で笑っているだけだ。

シヅイさん愛用の散髪ハサミ。戦前から使っている。小指をかけるフックが付いていないので、使うのが難しい

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