その人は、いつも穏やかそうな表情を浮かべていた。人と話すときには僅かに微笑みがこぼれる。ガハハと大笑することはない。時々つまらないオヤジギャグを言っては、よく照れ笑いをする。
このオジサンは何者?
初めて会ったのは、もう3年も前のことである。産廃処分場建設に反対する住民たちの会合で、紹介された。とは言うものの、私の方は新参者で、まだ事情も分からず、何もかも戸惑うばかりの頃で、大勢紹介された人たちの一人に過ぎなかった。
処分場建設反対運動のなかで、「あれは公約違反だ。町長室にみんなで乗り込んで、断固抗議すべだ」とか、「この際、県庁前でハンガーストライキに入るしかない」という強硬な意見が出されて、執行部が対応に困ったときなど、「自分は、それはやりすぎだと思う」と諭すように話していた。自らのことを「私は」とか「俺は」とは言わず、「自分は」と語るのが印象的だった。

和地秀美さん。こうしていると神職には見えない
和地秀美さんという。50代後半、作業用のベストがよく似合う。地元の人が「和地さんとこのコメはおいしいわ」と話しているのを聞いていたし、和地さん自身からも「樺島さん、コメどうしてる?困ったら、言ってきな」と言われていたので、当然、農家だと思っていた。
馬頭の中でも、かなり山深い小砂(こいさご)という地域に住んでいる。山も持っているらしい。樹木や山野花にも詳しい。一緒に、処分場予定地の備中沢(びっちゅうざわ)を散策した折に、イワタバコの群生地を教えてもらった。夏には、薄紫のかわいい花が、岩肌一面に咲きこぼれる。
「これだけたくさんのイワタバコが、一緒に生えてるっていうのは、本当に珍しいんだわ。県内でも、そうないんでないの」




