秋の気配が色濃くなったある日の午後、栃木県環境整備課の職員が、わが家を訪ねてきた。環境整備課は、県営産廃処分場の建設を担当している部署である。
日射しはまだ強いものの、涼しい風が吹いて、「あー、いい気分だ。デッキのイスでボーっとしようかな」と思っていたところを襲われた。
県が狙う、「守る会」の土地
相手は3人で、先頭に立っているのはM氏。彼とはこれまでも何回もやり合っているので顔見知りだ。「たまに顔ださないと、忘れられちゃうから」などとトボけたことを言っている。このM氏、どうやら息子の高校の先輩に当たるらしい。かくも田舎は世間が狭い。
後ろには、環境整備課の若手なのだろう、私の言ったことを一言も漏らすまいと必死にメモを取っている者がいる。さらに後ろで、バツの悪そうにしているのが、町の環境整備対策室の職員だ。道先案内をしてきたようだ。もちろん、彼とも知り合いである。
玄関の外で、少しばかり話をした。県はいま、処分場建設予定地である備中沢(びっちゅうざわ)の地権者回りを始めている。当面は、処分場の基本設計を行うための測量とボーリング調査をする許可を求めてということらしい。いずれは、土地買収にかかるのだろうから、その時のための根回しという意味もあるだろう。
処分場反対派である「馬頭の自然と環境を守る会」は、昨年末から今年初めにかけて、処分場予定地のかなり重要な部分の土地を2カ所買い取ることに成功した。地権者の家に日参したり、たびたび会合に誘ったりして、処分場の危険性を理解してもらい、ようやく買い取らせてもらった土地である。
それらの土地を、守る会のメンバー5、6名の共同所有にして、登記してある。これには、県も焦ったことだろう。これで、私たちは単なる反対派住民ではなく、予定地の「地権者さま」になったのだから。
処分場を作るためには、県は守る会の持っている土地を買収しなければならない。私たちの土地を避けて、処分場を作ろうとすると、ものすごくいびつな構造となり、それこそ危険性が高まる。それほどキーポイントとなる場所を、守る会は押さえたのである。

県が破壊しようとしている備中沢。子供が自然に親しむにも絶好の場所なのに…
行政としての最終手段は、土地収用法による強制収用しかない。そのあたりのことは、県も考えているだろうが、強制収用の実行となれば時間もかかるし、知事の政治生命もかかる。反対派にも、裁判など闘争手段が残されている。はっきり言って、2カ所の土地を取得できた時、これで処分場建設は止められると私は確信した。
もっとも、これまでアセスメントなどで大金を注ぎ込んできた県も、補助金の欲しい町も、簡単にあきらめる様子はない。むしろ既成事実化を進めようと必死だ。町長はこれまでの建設要請に加えて、「処分場建設を契機とする町の振興策」を町議会にも諮らず、知事に持ち込んだ。県は、基本設計の前提となる基本計画を住民との合意もなく勝手に決めた。あろうことか、その基本計画については、住民説明会さえ1回も開かれていない。




