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赤と黄に染め上げられた街

さて、ママドゥが、ラジオで森の大切さを訴えるうちに、仕切りに気になってきたのは、地元の伝統料理が劇的に失われようとしていることだったという。それについて、彼は、ちょっと気になる報告をしていた。

「インスタント・コーヒーで知られるその大企業は、信じられない安値でブイヨンを売り、テレビ広告や宣伝カーだけでなく、市場にも、街中に看板を張り巡らす。スピーカーを手にしたキャンペーン・ガールの中で、最も売上げの高かった女の子には、(イスラム教徒が大多数の国で)メッカ旅行が当たるという特典までつけていた」

広告やマーケティングに慣れっ子になっている私たちからみれば、いったい何が気になるのかピンと来ない。

ところが、ギニア第2の都市カンカンに入ったとたん、はっとした。

街のいたるところに赤や黄色のお馴染みのブイヨンの看板が立っている。ミニスカートのキャンペーン・ガールにも会ったし、人通りの多い市場は、コンクリートの施設に寄付でもしたのか、外壁の周囲をぐるりと一周するかたちで、同じ看板が市場を取り巻いていた。仕舞いには、大学の外にある看板を写真に収めていると、警察に連行され、危うく袖の下を要求されそうになった。

まるで、フランスのアルベールヴィルの冬季オリンピックだった。どの角度から撮影しても、競技場に貼られたコカコーラのロゴが映るというので、地元のマスコミからは、「これじゃ、コカコーラのオリンピックだ」と皮肉られた、あの光景が目に浮かぶ。

ブイヨンのシンボルカラーに染め上げられたカンカン市場の外壁

ブイヨンのシンボルカラーに染め上げられたカンカン市場の外壁

ここへ来てみると、ママドゥがむきになる気持ちは、少しわかった。

秋葉原や新宿のように、ごまんと宣伝文句がひしめく都市ではない。メニューのあるレストランが1軒なんていう街で、世界中で売られているブイヨンの広告は、さすがに少々アグレッシブだった。どうしても、日本の白いうまみ調味料が、アジア諸国に与えたインパクトを思わずにはいられなかった。

それでも、何とか地元の味にありつこうと、気を取り直して、ガイドブック『ロンリープラネット』を開き、ここなら地元の家庭料理が味わえるとあった店を探し当てた時には、この目を疑った。

店そのものが赤と黄のペンキで染まり、広告塔と化していた。電気もない埃っぽい店には、浮かんでいる野菜は地元のものだったものの、そのブイヨンのエビ味のスープがひとつきりだった。

“元”伝統料理が食べられる食堂。

“元”伝統料理が食べられる食堂。

(10月23日に公開予定の後編に続く)

島村 菜津(しまむら・なつ)

ノンフィクション作家。

1963年福岡生まれ。東京芸術大学美術学部卒業。著作に『フィレンツェ連続殺人』(新潮社)、『エクソシストと対話』(小学館・21世紀小学館ノンフィクション大賞優秀賞)。『イタリアの魔力』(角川書店)、『スローフードな人生』(新潮社)、『スローフードな日本』(新潮社)などがある。最新刊『バール、コーヒー、イタリア人~グローバル化もなんのその~』(光文社)が好評。

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