若き日のシザが手がけた建築に
自然と建築のつながりを再確認する
アルバロ・シザという建築家の巨匠にインタビューするため、ポルトガルに来ている。この夏、日本で彼の展覧会が催され、そのプレビューを書くためだ。シザは世界中で仕事をしているが、今でも活動の拠点はポルトという、ポルトガル北部の決して大きいとはいえない街に構えている。ポルトは甘い「ポートワイン」で有名な古い都市で、その歴史的な街並みは世界遺産に登録されている。
インタビューの前日に訪れたのは、現在74歳になる巨匠の、20歳代の出世作。かれこれ50年前に建てられた海辺のレストランと、そこから徒歩で10分くらいの場所にあるスイミングプールだ。これらが建っているのはポルト郊外のマトジィニョスという小さな街で、そこは彼の生まれ故郷でもある。
アルバロ・シザの建築は真っ白で窓が少なく、ポルトガルの強い日差しを受けた、くっきりとした陰影が特徴である。その静かで端正な空間を評して、彼のことを「建築の詩人」と呼ぶこともある。
僕にとってシザはル・コルビュジエ(注1)やアルヴァ・アアルト(注2)の影響を受けた“モダニズムの正統な継承者”という印象が強かった。
しかし、ここで見た風景は僕のそんな先入観を裏切るものであった。それはまだ若かった彼が、最高の立地を得て、自分の生まれた街と海に触発され、“モダニズムの継承”といったことにとらわれず、自由にのびのびと線を引いたような建築だったからだ。
注1 1887年~1965年、フランスで活躍したスイス生まれの建築家。近代合理主義をモダニズムデザインという美学へ進化させた
注2 1898年~1976年、フィンランドの代表的な建築家、デザイナー。北欧の近代建築における代表的作家の一人

海岸沿いの岩場に静かに“置かれた”ような建築
『ボア・ノヴァのレストラン』と呼ばれるその建築は、まるで海岸沿いの岩場の間に挟み込まれるようにして建っている。近付いても最初は屋根の一部しか見えない。アプローチの階段を登っていくと徐々にその姿を現すが、それでもどこまでが建築で、どこまでが自然の岩なのかがよくわからない。
建っているというよりは、建築が岩場にささやかに挟み込まれ、自然の一部に還元されているかのように見えた。また、建物自体はポルトガルの伝統的な民家のように、この地特有の茶褐色の瓦で屋根を葺いてある。そしてその稜線は、敷地の起伏の延長に続くようにコントロールされているので、陸側からでは、そこに建物があることさえ見落としそうになる。

岩場のトップとレベルのそろった屋根が海に向かって伸びている。瓦はポルトガルのどこにでもある素材だが、その使い方が絶妙
やがて、小さくてわかりにくいエントランスにたどりつき、扉を開くと突然、眼下に巨大な大西洋の風景が姿を見せる。これらのドラマチックな演出は、建築が自然の上に成り立っているのだということを、自分に改めて思い出させてくれる。

エントランスまでの複雑なアプローチ。階段を登るとドラマチックに海が現れる
先に述べたように、建物に使っている素材はポルトガル土着の素朴な物。しかし水平に大きく伸びる窓と、低く抑えられた庇(ひさし)がシャープに風景を切り取っていて、独特の緊張感を醸し出している。その空間の中で食べた地元料理とワインの味は、忘れることができない。

レストランの内部。トップライトからは陽が降り注いでいる。陰影の濃い内部空間はシザ建築の特徴である





