運河沿いの巨大な倉庫を快適なオフィスへ改造するまで
東京湾にほど近く、隅田川やその支流が流れる東京都中央区の勝どき。
僕はこの地域の運河沿いに建つ倉庫を、オフィスに改造するプロジェクトを進めていた。
そのオフィスが2月21日に完成し、オープニングパーティーが開かれた。

シードコーポレーションの東京オフィス。巨大な倉庫のなかにガラスキューブを置き、倉庫の床をフローリングにして、リビングルームのようなオフィスにした。
昨年、僕は『POST-OFFICE/ワークスペース改造計画』(TOTO出版)という本を製作しが、その理由はいわゆる普通のオフィス空間のあり方にずっと疑問を持っていたからだ。
かつてはオフィスでなんとなくデスクに座っていることが働く風景だったかもしれない。しかし多様化する職種、流動化する組織や勤務形態、コミュニケーションツールの進化、そして働くことの目的や意味の変化……。それらの複合要因はオフィスでの働き方を決定的に変化させている。
働き方が変われば、その環境も変わるはず。
でもオフィスはずっと、四角い単調な箱のままであり続けていた。
衣・食・住の順番で洗練されてきたデザイン、次は「職」の番だ。
僕たちは人生のかなりの時間を働いて過ごしている。今までも、そしてこれからも。だからこそ職場をデザインしていくことは、現代の大きな命題になると思っていた。今、人々は「快適であること、気持ちがいいこと」に対して敏感になっている。そして人々は、住環境の環境ばかりを強く意識しているのではない。この勝ちどきのオフィスは、そんな問題意識に対するある一つの解答のようなものだ。
そもそもこの倉庫は、「東京R不動産」のスタッフが発見した。
「勝どきのデカい倉庫が空いてるぞ!」と知らせを受け、夜中にみんなでワイワイと車に乗って見に行ったのが、1年くらい前だったと思う。その倉庫は天井高が10mくらいあって、隣には運河が流れている。倉庫街なので周囲にはあまり光はないが、対岸にはショッピングモール、「晴海トリトンスクエア」の夜景が輝き、「晴海グランドホテル」という聞き慣れない名の古いホテルが静かに光を放っている。その周囲の闇と対岸の明かりが生むコントラストが美しくて、みんなで興奮したものだ。
ちょうどその時期、僕が代表を務める設計事務所の「Open A」では、静岡を拠点に靴の製造及び輸入を行う「シードコーポレーション」の新ブランド「THE NATURAL SHOE STORE」の小さな店舗を設計していた。この会社が「東京にもオフィスやプレスルームをつくりたい」ということだったので、ダメもとで、前夜の興奮覚めやらぬ「勝どきの運河沿いの倉庫」に、その会社の担当者を連れて行った。この企業のコンセプトは「身体に気持ちよく、環境にやさしい靴」。僕はその企業姿勢と勝ちどきの水辺の空間はとてもマッチしているように思えたのだ。
半ば強引に連れて行ったその場所は、薄暗く、殺伐としていて、しかもファッションの中心からはるか離れた場所。普通アパレルのオフィスなら青山や原宿を選ぶべきで、常識ではあり得ない立地だ。しかし担当者はこの倉庫を見て興奮し、すぐに静岡にいる社長に電話をした。
「なんか、すごいオフィスを見つけました!」
こうして、この倉庫改造プロジェクトは始まった。
このプロジェクトは設計事務所「Open A」にとって、2つの活動の接点となるものだった。ひとつはずっとやり続けている既存建物のリノベーションへの大胆な解答。もうひとつは、現代のワークスタイルについての提案。今回の倉庫をオフィスに改造するという仕事が、両者の象徴的なモデルになって欲しいと思った。

東京中央区の勝ちどきの倉庫街。いつもは大きなトラックが行き交っている。




