「もう、そのくらいでいいんじゃないの……」

「……」

息子はなぜか畑仕事になると、人が変わったように驚異的な集中力をもって勤しむ。母親のアドバイスなど全く耳に入らない様子で、黙々とイモを掘り続ける。こうして30分ほど畑と戯れたら、家族だけでは食べ切れないほどのジャガイモを収穫した。その日の晩から、ホクホクのジャガイモ料理がしばらく続いたことは言うまでもない。

そして農家の人からお土産に「タンカン」までいただいたら、観光名所のひとつ、「千尋(せんぴろ)の滝」へとバスは向かう。日本屈指の景勝地を遠足で訪ねるのはそれだけで贅沢だが、滝の見学というよりはむしろ、弁当を食べることが主たる目的だから、なおのこと贅沢といえよう。何度も訪れている場所でも、目的が違えば新たな発見があるもので、弁当を広げる場所を求めて、まだ完成し切っていないような遊歩道を登っていくと、何とも素敵な場所に出くわした。傾斜地ではあるものの、都合よく芝地になっていて、しかも桜が数十本も植えてある。

「こんな場所、あったんだねぇー」

意外にも、そこは誰もが初めて知った場所だった。さすがに桜はまだ三分咲き程度だったが、3月上旬にしてひと足早い「お花見」気分を味わえたのは、予想外の展開だった。そして昼食を食べ終わると、ろくに滝など見もせずに、記念撮影をして、「お別れ親子遠足」は幕を閉じた。

「遠足、楽しかったか?」

「うん! 知ってるトコばっかりだったけどねっ!」

息子も子供ながらに、そんな印象を抱いたようだった。馴染みの場所ばかりとはいえ、山を仰ぎ、海を見下ろし、土と戯れ、そして滝を眺めて、さらに桜を見ながら弁当を堪能するという、まるで「フルコース」のような遠足は、僕たち親にとっても、予想をはるかに超えて充実したものとなった。

息子にとって幼稚園最後の遠足は、どんな思い出となって記憶に残るのだろうか。それはきっと、おやつの記憶しか残っていない僕の思い出に比べれば、ずっと贅沢で深いものとなるに違いない。

菊池 淑廣(きくち・よしひろ)

1969年、東京生まれ。1993年にスポーツウェアメーカーに入社。一貫して広告宣伝の仕事に携わり、自ら撮影、コピーライト、デザイン制作までマルチにこなす。

2005年4月、家族共々屋久島へ移住。それと同時に広告事務所「屋久島メッセンジャー」を設立し、雑誌やウェブサイトなどを通じて屋久島の情報を発信しながら、広告プランニング、撮影、コピーライト、ロケ・コーディネートなど、幅広く活動している。著書に「屋久島で暮らす あるサラリーマンの移住奮闘記」(山と溪谷社)。

ブログ「フォトライター菊池の屋久島移住ライブ日記」も公開中。

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