20代後半。死生観を覗きたいという気持ちがあった
納棺師──遺体を棺に収めることを、生業とする人のことだ。
納棺師は、ご遺体を清拭し、身支度を整え、棺に納める。つまり亡くなった方の「この世の旅立ち」のお手伝いをする。
今の日本ではあらゆる冠婚葬祭が簡略化される傾向がある。それだけに、実際に納棺師に会ったことがある、という人は少ないだろう。
しかし本木雅弘は、その納棺師という仕事に十数年前に出会い、心惹かれ、ずっとテーマとして温めてきたという。
「20代後半のことでした。藤原新也さんの『メメント・モリ』に感化されてインドを旅行したのです。“死を想え”という本のタイトルのごとく、死生観を覗きたいという気持ちがあったのでしょう。そこでは、生と死が当たり前につながって、日常的な情景として存在していました…」
やがて当時、詩人の青木新門が上梓したばかりの『納棺夫日記』で納棺の世界を知り、日本における“この世の旅立ち”の儀式にさらに惹かれていったのだという。
ある意味、『おくりびと』は、本木自身の10年越しの思いを実現させた映画ということになる。
「実際に目にした納棺という所作には、芸術性をも感じました。ですが、納棺師を取り上げることは、必然的に死生観を問われる面もあるわけですから、簡単に映像として切り取ることは難しいと思いました」
死生観は、個人にゆだねられるものであり、ひとつの宗教で語られるべきものでもない。
しかし今回映画化にいたったのは、「人間関係、コミュニケーションの希薄さが叫ばれている今だからこそ、この題材が生きてくるのではないかと、感じたのです。人が人を送るということは、連綿と続く命のつながりを強く意識させることにもなりますから」だという。





