終日航海が一番楽しい

客船の航海の基本は、朝どこかの港に着いて、そこで観光やアクティビティをして夕刻に出航し、次の港を目指す、というものです。次の寄港地が遠い場合には、翌日は終日航海して翌々朝の到着ということもあります。そういうスケジュールを船旅の経験のない僕は「1日中船の中にいるなんて、もったいない」とばかり思っていました。船をホテルに置き換えたなら、終日航海の日は、旅先でどこにも行かずにホテルの中で1日ブラブラ過ごすということになりますから。でも、実はこの終日航海の日こそが客船の旅でもっとも楽しい日だったのです。

船の中にはさまざまな講座、演劇、ダンス、スパ、フィットネス、プール、カジノ…ありとあらゆる楽しみがあります。その中から自分のやりたいことを見つけるのが楽しいのです。もちろんデッキに座って1日中ただ本を読んでいるだけでも良い。とにかく、それぞれが思い思いに好きなように時間を作れば良いのです。客船の中は、大人にとってのディズニーランドみたいなものですね。ディズニーランドに行った時は、地図を手にしながら、どのアトラクションから回ってどこで食事をして、どこでパレードを見て…とプランを練るでしょう。それと同じです。楽しむものが山ほどあって、時間を自分なりにどうアレンジするかを考える。贅沢な悩みですよ。普通のツアー旅行のように、1つ与えられたイベントを言われるがままにこなすのではなく、数ある選択肢の中から、自分の過ごし方を見つけるのです。この“自分で探す”というところが楽しいのでしょうね。

僕はある日の夕刻、デッキをひたすら走って過ごしました。そんな人間は僕以外に誰もいない。走るも走らないも、すべて僕の自由。

僕の乗った船には1000人くらいの乗客がいたはずなのに、船の中ではほとんど人と会ったような気がしない。みんな自分時間で自由に楽しんでいるから、人様のことなど目に入らないのでしょう。逆に、人と交流したければ、スクールの講座に参加したり、パーティーに参加したり、自分から積極的に人と触れ合おうと思えば、交流の輪を広げることはいくらでもできます。

そのなかで、僕は、夕暮れ時の太平洋を独り占めして走るのです。これこそ至福の時間でした。

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