小説だけでなく、「旅」を題材とした著作、エッセイも多い作家・立松和平氏。代表作の一つである『日本を歩く』シリーズでは、あまり観光客の訪れないような場所にまで足を運び、その地の美しい風景や地元の人々の出会いなどを描いている。また、「温泉が本当に好き」という立松氏は、各地の温泉に数多く入った経験を持っている。そこで今回は、立松氏の温泉での心に残った思い出や各地のおすすめの温泉宿などを紹介していただいた。
温泉地の思い出
こういう企画であらためて聞かれると、僕は本当に全国いろんな温泉に行ってますね(笑)。温泉が好きなんですよ。印象に残っている温泉がたくさんありすぎて困るほどです。

熊の湯温泉
まず上げるとすれば羅臼かな。知床に「熊の湯」という温泉地があります。旅館が何軒か並んでいて、お湯は全部共同風呂。冬は気温がマイナス10度から15度になるので、熱い温泉に入っていても髪の毛が凍ってしまいます。温泉の周りのコンクリートが凍っているので、湯から上がろうとすると瞬時に足元の氷が解けてストーンってこけちゃうんです。人がこけたのを見て「わあ、転んだ」と笑っていると、次は自分がこけるんです(笑)。マイナス10度や15度にもなると、寒くて体をふいている余裕がないので濡れたまま服を着ます。それでも身体はずっと温まるんですよ。
露天風呂で思い出すのは、黒部峡谷へと続く欅平(けやきだいら)の途中にある「阿曽原温泉小屋」ですね。露天風呂に浸かりながら秋の深まりゆく錦繍の山を眺めましたよ。本当に美しかったですね。そこから、「下の廊下」という断崖絶壁の道が黒部ダムの付近まで続いています。絶景ですね。シーズンが終わって小屋を閉める直前だったので、酒を処分してくれと言われて皆で大宴会をしたこともありました。
霧島温泉はお湯の量が豊富で、でかい風呂だったな。そういえば草津にも、とてつもなくでかい露天風呂がありますね。まるで池みたいな感じでしたよ。
尾瀬の入口にある舘岩の「湯の花温泉」もいい温泉です。集落に共同風呂があるんですけど、普通は男と女で分かれていますよね。でも、ここはお客さんと村の人って分かれているんです。




