庶民の人情と活気にあふれた商店街
JR「博多」駅の手前からほぼ南北に走ってきた鹿児島本線は、そこを過ぎると東南に方向を変えて「竹下」駅へ向かう。かつてはこの駅の手前から南西に別れて、佐賀県の東唐津へと向かう筑肥線が伸びていた。福岡市営地下鉄の開業にともなう相互乗り入れによって、1987年に筑肥線の博多—姪浜(めいのはま)間は廃線。その跡には遊歩道やバス路線が整備され、市街の新しい交通ルートとして活用されている。
かつての筑肥線が博多を出ると、次に停車するのは「筑前蓑島(みのしま)」駅。この蓑島という地名は博多古図にも見受けられるが、江戸期以前は那珂川の河口に浮ぶ小さな島として描かれている。つまり昔はこのあたりまで入り海が広がっていたが、福岡城の築造時に埋め立てられて陸続きになったといわれている。戦後の地名改変にともなって新しく美野島の文字に変わり、蓑島の表記は消えていく。戦災をまぬがれた美野島の界隈は、大正・昭和からの民家や商家、商業ビルが数多く残る地域だが、都心にほど近いことからマンションなどが続々と建設され、庶民的な街並みに新しい変化をもたらしている。

昭和レトロの風情が残る夕映えの商店街
美野島という地名から地元の人が一番に思い浮かべるのは、まず間違いなく美野島商店街である。JR「博多」駅の筑紫口から南に折れて道なりに進むと、市内を東西に結ぶ百年橋通りの宮島交差点に出る。そこから百年橋通りを南西へ。鹿児島本線のガードをくぐってまっすぐ歩き、福岡銀行の角を右に曲がると「美野島通り」。その先、信号のある十字路のあたりが美野島商店街。東西向きの「美野島橋通り」には細い路地の両側に、昔ながらの八百屋、魚屋、果物屋が競うように品物を並べ、ホルモン屋や鳥肉専門店から薬局や畳屋、自転車屋まで、ぎっしりとひしめいている。揚げ物屋や焼き鳥屋からは空腹に響く匂いが流れてくる。夕暮れともなれば、西陽に染まる通りに買物客があふれ、威勢のいい売り声があちこちで飛び交い、温かな人情と活気に包まれる。その懐かしい光景は昭和の時代にタイムスリップしたかのよう。
商店街の十字路の角、大正9年創業という「かどや食堂」の手作りアイスキャンデーは、その象徴といえるかもしれない。まっ茶、あずき、いちごなど味は5種。どれも1本50円というレトロな価格。絶大な人気を獲得している商品だが、残念ながら6~9月の夏季限定。例年、夏を待ちわびるファンに支えられた極めてローカルな名物である。もし時季外れなら、揚げたてのコロッケでもかじりながら、ぶらぶら歩きを楽しんでほしい。そんな気さくで庶民的な商店街なのである。

木と土の素材感を活かした素朴な店構え
十字路から美野島通りをさらに北へ歩くと、左手にスーパーがある。その向かい側、軒先きに木製のステップとデッキを造り込んだ店がある。壁は淡いピンク色の塗り壁。店頭にはサボテンの鉢植えとサーフボード。スペインかメキシコの民家を思わすようなノスタルジックな店構えの玄関先に「Pub Pueblo(プエブロ)」の看板。何かしら心引かれるものがあり、重い木製ドアの、鋳物(いもの)の取っ手を引いてみた。




