欲しいものが何でもそろう“博多の台所”
もしも福岡で空き時間ができたなら、気軽にぶらりと訪ねてみてほしい場所がある。美味しいものに目がないという人には、相当に楽しめること間違いなしのスポットである。天神エリアを貫く渡辺通りの南端、渡辺通り一丁目の交差点から東へ向かうと“柳橋”があることは、以前に川端通りの芋焼酎「松の露」で紹介した。JR博多駅からなら、博多口の駅前を南に折れて住吉通りを西へ向かうと、同じ橋を渡ることになる。この橋の北西側一帯は細い道が複雑に入り組み、その両側にずらりと食料品店が並ぶ市場がある。これが“博多の台所”と呼ばれる柳橋連合市場である。

「博多の台所」という文字が目を引く、柳橋連合市場の正面入口
「ほら、活きのよかよ~」「いまが旬の地物、どげんね」「さ、安かよ~」と、あちこちで威勢のいい売り声が飛び交い、市場ならではの喧噪に包まれる。どの店先にもトロ箱やダンボール箱、ショーケースがぎっしりと並び、通りにまではみださんばかり。マジック書きの値札を立て並べ、買い物客に自慢の品をアピールしている。連合市場を構成する店鋪は約40店ほど。九州各地で水揚げされる地物の鮮魚を扱う店が多く、店頭でうごめくカニやエビ、シャコなどが目を引く隣で、マグロやカンパチ、タチウオなどが迫力の姿を見せつける。さらに九州特産のフグやトビウオ、キビナゴなどが居並び、鮮度のよさを訴える。これに名物の辛子めんたいなどの水産加工品や練り物なども加わって食い意地を刺激する。それぞれの店が得意分野を持ちながら、互いに鮮度と品揃えを競っている、といった風情。さらに精肉、野菜、果物、菓子、豆腐、食材・調味料など、多彩な店が工夫を凝らした品揃えでさまざまな角度から誘惑してくる。見て歩くだけでも、つい胸が躍り、心が騒ぎだすのである。
この柳橋連合市場の成り立ちは、何でも大正中期にまでさかのぼるという。柳橋のたもとに数人の鮮魚商が集まり、大八車に積んだ魚を売り出したのがはじまりとされ、やがて「柳橋廉売市場」と呼ばれるようになる。その後、昭和初期にはいくつかの店鋪が立ち並び、にぎやかな人通りにも支えられて大繁盛し、5つの組合が次々に結成された。戦後になって、これらの組合が手を結び、現在の「柳橋連合市場」を名乗るようになったということである。「旬のものから珍しいものまで、柳橋に来れば欲しいものが何でもそろう」と、福岡の料理人から絶大な信頼を集め、料亭やホテル、割烹や料理店などが仕入れる業務用食材が、市場の売上の大半を占めているそうだ。もちろん周辺の住民たちが足繁く通う気軽な市場でもあり、家庭の毎日の食卓もしっかりと支えている。

市場の路地の奥、レンコン模様の麻ののれんが揺れる小粋な店構え
住吉通りに面した市場の正面入口から、鮮魚店の並びを斜め右に進むと和菓子店の角に出る。そこを左に折れて市場の奥へ。二つめの十字路の右角、店先につくばいを置き、野趣を感じさせる草花を飾った小粋な店がある。のれんは輪切りのレンコン模様であり、店の名は「蓮(れん)」。市場が店仕舞して静寂が訪れる夕暮れ、店の灯が十字路をほのかに温かく照らし出す。




